2023.04.21
現在読んでいる「マルセル・デュシャン全著作」(ミシェル・サヌイエ編 北山研二訳 未知谷)と並行して「グスタフ・クリムトの世界」(海野弘 解説・監修 パイインターナショナル)を読み始めました。本書の副題を「女たちの黄金迷宮」としていて、頁を捲るとクリムトを取り囲む当時のあらゆるウィーン美術界の動向が豪華な図版とともにまとめられていました。私の本音を言えば、デュシャンの創作ノートを読んでいるうちに、その思考回路についていけずに、かなり辟易していて、もう少し自分が癒されるものはないかと書店を探していたところで本書を見つけたのでした。クリムトが20世紀初頭に活躍したオーストリアの首都ウィーンは、私が30数年前に5年間住んでいた街でした。その街の空気感に触れていたことで、クリムトを身近に感じていたことは確かです。クリムトや同時代の画家シーレを私は学生時代に知り、アールヌーボーやアールデコというデザインの傾向を調べてみたりしました。ウィーンに行って本物を見た時は感慨一入でしたが、そのうちウィーンにやってくる観光客を案内する程度になってしまい、海外生活の慣れに苦笑することもありました。クリムトの有名な絵画はよく見ていましたが、ブルグ劇場の内装にあったアカデミックな絵画がクリムトが弟たちと共同のアトリエで制作したものと知って、古典的な手法で描かれた壁画に驚きました。クリムトが古典的なデッサンに支えられた描法で作品を作っていたことがイメージになかったので、俄かに信じられなかったのでした。その下絵やデッサンも本書には掲載されていました。本書を読むにあたって、クリムトのさまざまな側面を注視しながら楽しんでいこうと思っています。