2024.06.14
「劇場のグラフィズム」(笹目浩之著 グラフィック社)は「宇野亜喜良展」のギャラリーショップで発作的に購入してしまった書籍です。副題に「アングラ演劇から小劇場ブーム、現代まで」とあって、演劇における宣伝美術に、いろいろなアーティストやデザイナーが関わった軌跡を一冊にまとめたものです。その多様な表現にはさまざまな要素が節操なく入っていて、何だかとても元気な時代を反映していると感じています。「近代演劇に大きな影響を受けた新しい演劇ということで『新劇』といわれた。新劇は写実的でリアリズムを大切にした。1960年代、リアリズムを追求した新劇に対抗し、劇団を飛び出し自分たちの思想を表現したいという演劇人が登場する。学生劇団出身者も多く、彼らは次々と小劇団を旗揚げ。これが『小劇場運動』のはじまりである。」私は大学時代にアングラ劇やミニシアターに通い出し、演目の情報は専らポスターで得ることにしていました。携帯電話のない時代に私は実際のポスターを見て、次はこれに行こうと決めたのでした。「1960年代のアングラ劇団のポスターを眺めていると、まさに人の心を虚構の世界に誘おうとする強烈な意志が伝わってくる。この時代の前衛的な演劇人にとって、ポスターは単に告知をするための道具ではありえなかった。芝居によって社会を変えたいと思った彼らは、ポスターにもその想いをこめようとした。ポスターは、そんな自分たち自身の宣伝であり、自分のドラマの宣伝でもあり、芝居をつくるための、いわば最初の一手だった。」若かった私が惹きつけられた演劇のポスターはこんな要因があったのだろうと思います。それでも当時は、私がヴィジュアルな世界に飛び込んでいかなかったのは、彫刻の力があったからだと述懐しています。私はアカデミックな人体塑造をやりながら自分と距離をとったところで、アングラ劇やそれに付随する多様なポスターを味わっていたのでした。自分の表現する手段や方法に対し、自分に合ったものとは何かを、私は当時から考えていたのかもしれません。