2024.09.02
「抽象芸術」(マルセル・ブリヨン著 瀧口修造・大岡信・東野芳明 訳 紀伊國屋書店)の「Ⅲ 現代抽象美学の形成 」の次の単元は「建築、新しい形態と空間の追求」で、テーマが大きいので分割します。今回は私が注目する彫刻家に関する論考です。まず冒頭の文章を引用いたします。「彫刻家が形態の本質的諸法則や、形態がもつゆたかな可能性を意識したとき以来、内部の空間と外部の空間との関係は深刻な変化を経験した。というより、まったく新しい関係を生み出した。物象再現の伝統や大衆の偏見から解放された現代彫刻と、空間に関する新しい物理学的、数学的概念とのあいだには、はっきりした照応関係があるが、この関係は、現代芸術がいかに科学者の宇宙認識に共通したものを持ち、この認識を彫刻に固有する手段と、多様な技術をもって表現しているかを示すものである。」まず、ヘンリー・ムーア。「ヘンリー・ムーアは芸術全般、とりわけ自分自身の芸術について、長いあいだ、委曲をつくした反省を重ねてきたが、にもかかわらずかれはいかなる《頭のよさ》にもまったくわずらわされていない。かれのフォルムがありのままの《形態》からどれほどかけ離れているようにみえる場合でも、かれにこうしたフォルムを生みださせたものは、断じて主知主義的な世界観ではないのだ。」次にブランクーシ。「ブランクーシのもたらした大きな教訓は、主として、なまの形態をダイナミズム(鳥)という形で基本的な量塊にまで統合したことにあった。これはちょうど、キクラデス諸島の偶像が、なめらかな大理石でつくった卵形の仮面のなかにその神性をとじこめ、いかなる再現の欲求をもよせつけなかったのと同様である。素材の高貴さ、純粋なフォルムの表現力、偶然や逸話性の排除といった性質は、本源的な詩を形づくろうとする禁欲的な意志に支えられて、ブランクーシの作品が新しい時代の真の告知者たらしめている。具象的再現の制約をまぬがれた造形的ヴォリュームは、固有の法則で編みだした。というより、具象化の必要ーあるいは習性ーによって覆いかくされていた永遠の法則を再発見したのである。体系によってでなく、本能によって、ブランクーシはもっとも根本的な原理を見いだし、またむきだしの量塊のなかに本原的な衝動、純粋な飛躍を見いだしたのであった。」今回はここまでにします。