Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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新聞記事より「空白のまま、ポンと…」
今日の朝日新聞「折々のことば」より、記事内容を取り上げます。「いいなというときの、モチーフが思いついた瞬間というのは、記憶にないんです。坂本龍一」この言葉に著者の鷲田精一氏がコメントを寄せています。「いじくり回して形にするよりも、『空白のまま、ポンと出来ちゃっ』た時のほうが力に満ちていると、音楽家は言う。たしかにいいアイデアを思いつく時も、会議がいい具合にまとまり、この意見を最初に言いだしたの誰だっけ、と顔を見合わす時もそう。思いがけず光が射すのも、先にそこに空地が開かれていたからだろう。思想家・吉本隆明との対談『音楽機械論』から。」新たなモチーフを思いつくのは音楽家も造形美術家も、同じ地平にいると私は考えています。私自身、気合を入れて力作を作ろうと意気込むと大抵ダメな作品が多く、それこそいじくり回して形にしても、新たなモチーフを諦めきれずに、せっかく思いついたイメージを捨てられない状況に陥ります。苦労を重ねた駄作の後に、ふと力が抜けた状況で出来上がったものに、ひょっとしてこれは秀作かもしれないと思ったりします。意欲や意志とは別のところに創作が息づいているのは、摩訶不思議で面白い現象です。制作の渦中にいる時は、精神的にも肉体的にも厳しくて、幾つも峠を越えていく旅人の心境ですが、その労苦がどうなるのか分からないことに不安も覚えます。努力は必ず報われるという図式は、学校教育で教わる定番ですが、創作活動にはそれがあてはまりません。でも努力しなければ何事も始まらないのですが、「光が射すのも、先にそこに空地が開かれていた」という一文は、その通りだと私も思います。空地とは何なのでしょうか。心のゆとりでしょうか。制作の渦中で自分をどのくらい客観視できるか、無我夢中の中で開かれた空地を持てるようになるのか、まさに創作活動は全人格を注ぐ高度なものかもしれないと思うこの頃です。