2024.10.17
「抽象芸術」(マルセル・ブリヨン著 瀧口修造・大岡信・東野芳明 訳 紀伊國屋書店)の「Ⅴ 抽象絵画の主流 」の文中に出てくる多くの芸術家を今回も3人取り上げます。まず、タル・コアット。「具象的な絵画でタル・コアットが探究したものは、造形的であると同時に合理的な総合であった。それにはなお、キュビスムの精神があったが、それよりはるかに型にはまらず、もっとのびのびとした、有機的なものであった。かれは、風景や静物を幾何学的な要素に還元されずに、形態の本性そのものである色彩の振動を捉えようとつとめた。きわめて流動的な滑らかなマティエールが用いられ、それは、形態を閉じこめ、形骸化する可能性のあるものを、すべて放棄して、この振動の運行の跡を画布のうえに定着したのである。」次にピエール・ボナール。「印象主義はある種の純粋抽象に到達しえたかもしれないのであって、事実ピエール・ボナールの作品のような、その発展の極点においては、ほとんどそれに到達したのである。もはや容易に弁別できる『具象形態』ではなく、たえず運動しているような色彩の振動、光の粒子の鼓動になっているのだから。ボナールのタブローにあるものは、ほとんど具象的とよぶことはできない。それほど明らかに、形態が消え、解消し、一種の色彩の交響にとってかわられている。これはおそらく、いわゆる絵画というよりも、音楽的な美学に属するものだ。」最後にポール・シニャック。「ポール・シニャックは、かれの名づけるところにしたがえば、新印象主義を『印象主義の理論的発展』であると述べている。ここで、新印象主義の技術である『分割描法』や『点描法』について論ずる必要はない。ただ本書の主題に関係して重要なことは、新印象主義者たちが印象主義の『混乱』のなかに設定しようと主張した秩序の意志である。」本書の解説文が難解なところもありますが、登場する画家の作品を知っていれば、何とか理解ができると思っています。今回はここまでにします。