2024.11.06
「抽象芸術」(マルセル・ブリヨン著 瀧口修造・大岡信・東野芳明 訳 紀伊國屋書店)の「Ⅴ 抽象絵画の主流 」の文中に出てくる多くの芸術家を今回も3人取り上げます。今回は宗教絵画に関するものです。「(アルベール)グレーズの探究は、1900年頃表明された宗教芸術の未来についての不安に解答を与えたものであった。いわゆる聖シュルピス教会の芸術が端的に示していたような妥協と平俗にたいするきわめて強力な反抗が独創的で新しい表現の探究をひき起したのである。しかし、そのうちのあるものはきわめて貴重なものだったが、大半は目的を失い、あるいは目的を逸脱したものだった。なぜなら、新奇さと独創性を求めるあまり、人は、キリスト教芸術の本質的な目標のうちでも特に大切な宗教的感動、神聖の感情を忘れていたからである。」次にマネシュ。「(アルフレッド)マネシュは自然のきわめて近くにいる。そして脳髄の力そのものには、徹底的に反抗している。このようなかれ独特の自然表現ー非具象的という意味での抽象的な表現ーによってこそ、かれは宗教的感動の表現に非凡な能力を得ることができたのである。これこそ、かれをわれわれの時代の偉大な宗教画家たらしめているものだ。なによりもまず、かれのおかげで、抽象芸術はもっとも純粋な伝達手段と思われるようになった。なぜなら、これこそ唯物主義的な要素や、宗教的な現象の再現なしにすませられる最上のものだからである。」最後にザック。「抽象的な宗教画の持つ感動と暗示の力に異義ある芸術家や美術史家に、私は(レオン)ザックの『十字架の道』を研究することをすすめたい。おそらく非具象的な形態というものが、じつに苦行的な節制の手段を用いながらも、どれほど驚くべき感動の力を持つものかに気づかれるだろう。また苦行的というこの言葉を聞くと、神秘主義者たちが、日常的な可視的な姿と形態の言語を用いて、かれらのヴィジョンを転写するのにいかに苦心したかが、われわれの記憶にまざまざとよみがえってくるだろう。」今回はここまでにします。