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「抽象絵画の主流 」について⑯
「抽象芸術」(マルセル・ブリヨン著 瀧口修造・大岡信・東野芳明 訳 紀伊國屋書店)の「Ⅴ 抽象絵画の主流 」の文中に出てくる多くの芸術家や美術史家を今回は取り上げます。とくに抽象芸術と音楽の関係に注目しました。「この古典主義は、抽象化の力を、徹底的な剥皮にいたるまで押し進め、それが直接幾何学や諸数学に屈する地点にまで到達する。ドイツ人ヨーゼフ・アルバースが正確で鋭い知性の構成をつくるのも、そのような古典主義によってだ。幾何学的で精緻でつきさすような形態が極端に単純化されるにいたったかれの絵画、画布や紙の上にひかれた黒い線にせよ、黒檀の板の上にはめこまれた白いマティエールにせよ、その絵画はわれわれのなかに、ルネッサンスの美学者や学者の持っていたと同じ本質的なものへの要求をかき立てる。」次に音楽についての論考です。「抽象絵画は、なににもまして音楽に近いものだ。なぜなら、まず、そのコンポジションは、ほとんどの場合、音楽のリズムに明らかに類似したリズムを構成することにあるからである。この音楽のリズムは、結晶が音楽的な法則と同じ級数に従って成長するのが観察されたように、いたるところに、自然のなかにすらその反映がみられるものなのだ。この問題に関するゴールトシュミットの考察は、きわめて魅力的であり、かれは、それを通して有名な錯綜の法則を樹立するにいたった。主として自然哲学年報に発表した『音楽作品の和声の分析について』と、著書『調和と錯綜』のなかに述べられ、展開されているのがそれである。~略~また抽象絵画を、ペーターとカスナーが説く音楽のこの状態に近づけているもうひとつの理由がある。それは、なによりもまず感受性に訴えかけるという点である。具象的な芸術作品を調べる方法は無数にある。反対に抽象的な作品の場合は、感受性にこそ最良にしてこの上もなく確実な導き手である。一方、知性のほうは、キュビスムの不可欠な通訳なのだ。抽象絵画を前にした鑑賞者は、クロード・モネの画布の前に立ったと同じように、柔軟で、自由で、感じ易くなければならぬ、といってもすこしも差支えあるまい。」今回はここまでにします。