2024.12.06
昨日、東京六本木の泉屋博古館東京に行った後、六本木ヒルズに移動し、そこにある森美術館で開催されている「ルイーズ・ブルジョア展」を見てきました。六本木ヒルズのランドマークとして設置されている巨大な蜘蛛が卵を抱く彫刻が以前から気になっていた私は、この作者がどんな人なのか知りたくて本展に足を運んだのでした。彼女が生涯に出会った出来事を具現化し、その都度作品として生み落としてきた痕跡が生々しさを伴って展示されていました。図録の論考の冒頭に次のような文章がありました。「ブルジョワの作品は、感情、身体性、セクシュアリティ、ジェンダーといった主題を扱い、その多くが、ブルジョワ自身の人生、特に幼少期に経験した、複雑でときにトラウマ的な出来事をインスピレーションとしながらも、神話や寓話的な世界観へとつながる普遍性を保持している。」私が興味を持ったのは蜘蛛の彫刻なので、その部分を図録で探してみました。「ブルジョワは、1990年代半ばに蜘蛛をモチーフにした大型ブロンズ像の制作を始めるが、この作品は、1990年代前半に始めた『部屋』シリーズのひとつでもある。それぞれの『部屋』は、独房や隔離された狭い空間が、ブルジョワの彫刻や収集物や衣服などで満たされている。ブルジョワにとって蜘蛛は、織物職人であり、一家でタペストリー修復工場を営んでいた母の象徴である。蜘蛛は混成的な行動ー糸で巣を修復し、子蜘蛛の脅威となる相手を威嚇し、子蜘蛛が食べる獲物を捕らえるーによって、母性の複雑さを体現している。~略~蜘蛛が巣作りのために体内から糸を出すように、自身の体からエネルギーを解放するために制作を続けたブルジョワにとって、蜘蛛は自分自身でもあった。」(椿玲子著)野外に設置された大型彫刻の蜘蛛を見た時に、これは蜘蛛の形態を媒介とした何か別の表現意図があるのではないかと私は思っていましたが、本展に出品されていた1997年制作の「蜘蛛」を見た時に、檻のような部屋を守るように長い脚を広げた状況を見取って、図録の論考が理解できました。蜘蛛の脚の内側に作家の主張を持ち込んだ作品が、私はとても好きになりました。