2024.12.11
「世紀末芸術」(高階秀爾著 筑摩書房)の「機械文明の発達」について、気に留めた箇所をピックアップしていきます。「装飾芸術ももちろんのことながら、産業革命の結果が最も直接に大きな影響を及ぼしたのは、建築においてであった。4世紀前のルネッサンスが、油彩画という新しい技法と材料の導入によってその後の絵画の歴史を大きく規定してしまったように、19世紀の芸術史は、建築における新しい材料と新しい技術の導入によって、歴史の方向を決定づけたのある。」ただし、当時はその無理解と誤謬があったようで、こんな文章がありました。「19世紀においては、建築というものは過去に完成された優れた様式を再現することがその任務であるという考え方が支配的であり、ギリシャ、ローマ、中世、ルネッサンス、バロック等過去のあらゆる様式が模倣されながら、新しい試みは最初から否定されたのである。~略~今では世界中誰知らぬものもないパリの名物として、セーヌ河畔に聳え立っているエッフェル塔は、1889年の万国博覧会の時に建てられたもので、現代建築の出発点と見なされている輝かしい記念碑である。だがこの驚くべき塔を建てたエッフェル自身は、決してそれを新しい建築だなどと考えてはいなかった。」この文中に登場した万国博覧会に関する文章がありました。「事実世紀末の転換期において、とくに建築や装飾美術の動きを語ろうとする時、どうしても見逃すことのできない重要な役割を演じたのは、万国博覧会であった。それは、科学・技術の豊かな成果を一堂に集めて、一般の人びとにも近づき易いかたちで示そうとするものであり、いわば当時洋々たる未来を持っていた、いや持っていると思われていた機械文明に捧げられた壮大な祭典だったのである。」最後に写真術について書かれた文章がありました。「写真が画家に対して持っていた危険というのは、大別して二種類あった。ひとつは、あまりに写真の映像に捉われすぎて画家が自己独自の創造力を失うといういわば創作の本質にかかわる危険であり、もうひとつは、写真の示す瞬間的映像はしばしば人間の視覚の理解力を超えているため、かえって視覚上の真実を損うという写実主義の本質にかかわるものであった。」今回はここまでにします。