2024.12.27
「世紀末芸術」(高階秀爾著 筑摩書房)の第三章「世紀末芸術の特質」の最後に「音楽性と文学性」の単元があり、これについて気に留めた箇所をピックアップしていきます。まず、音楽性について。「あらゆる芸術のジャンルの中で、音楽は最も現実を遠く離れた素材を用いる。音楽の材料となるのは、自然の騒音から抽象され、純化された楽音であり、自然界の音の再現ということは、ごく稀に試みられることがあるとしても、その本質をなすものではない。描写音楽といっても、絵画の場合の細密な写実力とは比較にならないほど抽象化されている。」次に文学性について。「綜合主義や象徴主義、新印象主義の名称は、今日まで続いているが、そのほかにも、理念主義、色彩主義、新伝統主義、分割主義、点描主義、新プラトン主義等々、さまざまな主義や流派が、それぞれ理論的支柱を担って登場してきた。それはむろん、すべてが同じような重要性を持つものではないが、少なくともそこに見られる強いエネルギーと、新しい創造への意欲は、この時代のみの持つ豊かな幅の広さを示しているのである。理論に対するこのような好みは、ひとつには、19世紀の実証主義と科学主義を背景にするものであった。すべてを、芸術現象のようなきわめて微妙なものまでをも、いくつかの要因によって説明しきろうとする態度は、しばしば行き過ぎを招くことすらあったが、それらの行き過ぎをも含めて、美術に多少とも関心を持っている人びとは、それぞれ自己の一家言を披瀝し、それに対してまた賛否の議論が繰り返されるという、まことに文字通り百家騒鳴の時代であった。」世紀末芸術が隆盛を極めた19世紀末から20世紀初頭に、坩堝の如く芸術運動が起こり、現在も存在を誇るジャーナリズムが芸術議論を展開する形が作られたことを、私はここでよく知ることができました。現在から見れば、その活況が羨ましく映りますが、過渡期に見られる摩擦や共感が現在まで続いていると言っても過言ではないと思います。