2025.01.07
「世紀末芸術」(高階秀爾著 筑摩書房)の結びの章「20世紀への道」に入ります。本書最後の章になり、気に留めた箇所をピックアップしていきます。「ルネッサンスが澄みきった空に薄薔薇色の靄をたなびかせる輝かしい『魂の夜明け』であったとすれば、世紀末は人工的な赤と黄の華やかなイリュミネーションの溢れる夜の世界であった。15世紀に明けそめた西欧の近世が、ようやく終わろうとする夜であった。夜はさまざまな夢と幻想を生む。印象派とともに明るい太陽の最後の光を浴びた西欧芸術は、やがて現実的な世界に背を向けて、現実離れのした幻想や抽象的な線の世界に没頭するようになった。建築においても、絵画においても、デザインや室内装飾においても、あるいは奇怪な、あるいは華やかな多彩な装飾模様が溢れた。それまで外にのみ向けられていた人間の眼は、今や別の世界に向けられ、現実中心の世界像は完全に崩れさってしまった。しかし、ものみなが闇と幻想の中に沈みこむ夜は、また新しい明日の夜明けを約束するものでもあった。世紀末とともに大きく転換を示すようになった西欧芸術は、やがて20世紀の輝かしい夜明けを迎えようとしていた。」本書をここで閉じますが、解説を鶴岡真弓氏が書いています。「主題に纏わりつく暗色のイメージを払拭するかのよう。鮮やかな博覧強記と速度で、装飾芸術はじめ、絵画・彫刻・建築・音楽・文学・批評、自然科学など幅広いジャンルにわたって『綜合的』展開を浮上させる明快さ。文字通り『新しい(ヌーヴォー)』や『青春(ユーゲント)』や『自由(リバティ)』というムーヴメントの『意欲的』名称に添う、明晰な『光』をはらんでいる。私はその書に『曙光』という名をつけたいほどであった。~略~いかにも、世紀末アイルランドの詩人イエイツが詠ったように、すべての真昼は、深い夜につづくダイナミックな黄金の『夜明け』から始まる。私はこの書『世紀末芸術』そのものが、夜明けを語る『曙光』であり続け、私たちの目を開かせる、無限の可能性を秘めていることを、いま、あらためて思うのである。」私は折に触れて世紀末芸術をNOTE(ブログ)で断片的に語ってきました。ここで漸くその総体を掴み、現代にまで生きている痕跡を認めるまでになりました。本書はいろいろな意味で私に啓示を与えてくれたと感じています。