2025.03.10
先日、東京都美術館で開催されている「ミロ展」に行ってきました。日本では幾度となく展覧会をやっているジュアン・ミロですが、今回の展覧会にはミロの世界を概観するのに充分な作品群が揃っているような感覚を持ちました。私が好きな絵画は1940年頃に描かれた「明けの明星」、「女と鳥」、「カタツムリの燐光の跡に導かれた夜の人物たち」があります。会場では薄暗い中で、そこだけ照明が当てられて、決して大きくはない作品ですが、表現された世界に大きな空間を感じていました。ミロが取り組んだ表現形式の中で、とりわけ私は立体作品が好きで、本展にも何点か来ていました。彫刻の既定路線とは違う趣向があって、ミロの立体に見られる自由さが私の気に入っているところです。図録にそんな立体に関する論述がないものか探してみたら、こんな文章に眼が留まりました。「ミロは以前からオブジェを組み合わせた彫刻をいくつか制作していたが、1960年代に入るとブロンズを用いた創作に本格的に取り組み始める。そうした彫刻の出発点は常に予想外のものとなった。ミロは、『私は見つけたオブジェだけを使う。大きなアトリエにすべて集め、床に広げて置く。そしてそのなかからひとつ、またひとつと選ぶ。そのなかのいくつかを組み合わせて作ることもあれば、時にはほかの彫刻から一部を取り入れることもある』どのオブジェを選ぶのか、理由はさまざまである。ふと形を気に入ることもあれば、ユーモア、皮肉、暗示的な力、あるいは独特の象徴性に触発される場合もあった。日常的なオブジェにも深い詩情を伝える力があるとミロは考えていた。オブジェが組み上がると、ロストワックス法を用いてブロンズに鋳造するのだが、ミロが重視していたのは最終的な仕上げだった。この段階では、鋳造所の職人たちとの連携が不可欠となる。ミロは彼らの手で実現される『野性的で力強い表情』をもつ質感(パティナ)の表現力を常に高く評価していた。」(エステル・ラモス・プラ著)私はバルセロナにあるミロ美術館で見た着色ブロンズの立体作品の数々が今も忘れられずにいて、本展にも何点か来日していたので、嬉しくなりました。絵画にしろ立体にしろ、爽やかな詩情に溢れているのは、ミロ本人がもつ豊かなセンスがあればこその造形なのだろうと思っていました。