2025.03.13
展覧会に行く日は、私は工房で窯入れをしている時と決めていましたが、陶彫作品の乾燥が進んでいないため窯入れは出来ず、今日も昨日と同じく午前中は陶彫制作をしていました。午後になって私一人で東京の目黒区美術館に出かけました。当館で開催していたのは「中世の華・黄金テンペラ画」展で、副題に「石原靖夫の復元模写」とありました。石原氏はイタリアでテンペラの修復を学び、また実践を通してその技法を日本に齎せました。展示された作品の数々は極めて細密で集中力の要る仕事だなぁと思いました。14世紀イタリア・ゴシック期のシエナ派を代表する画家シモーネ・マルティーニの「受胎告知」の復元模写を見ていると、おそらく当時は教会の中で光り輝く絵画を見て、中世の人々が十字を切って信仰を新たにしたのでしょう。図録の文章を拾ってみると、石原氏の実績が見えてきます。「1992年以降、石原とは、テンペラ技法をテーマにしたワークショップを7回重ねて30年あまりが経過した。一貫していたのは、本格的な技術獲得を目指す人を対象とし、板絵に描く、羊皮紙に描くという内容はもとより、制作するための道具、例えば箔台、箔刷毛、箔ナイフを自作するという内容や、中世の色材についての研究にも触れるなど、広い範囲でテンペラ画制作を扱ったことにある。~略~今回の展示のメインの復元模写《受胎告知》は、8年間のローマ留学を終えた石原が1978年の帰国時に持ち帰り、1975年にリニューアルした東京都美術館で、画期的な美術館事業を展開していた森田恒之氏を訪ねたことにより公開が決まり、当時珍しかった展示を組みあわせた公開制作と講演会が行われ、14世紀のテンペラ技法が披露されて話題になった。原寸より少し縮小して描かれたとはいえ、高さ2mほどの祭壇画模写、金箔を6枚の層に貼りそれを磨き上げる作業では、肩に支障が出るほどの力が必要だったと石原は語る。」(降旗千賀子著)本展ではメインとなる復元模写のための道具や技法の紹介の他に、石原靖夫氏によるイタリアの風景画も数点展示されていました。これもテンペラ画によるもので、正確な遠近法と緻密な描写に超絶技巧を感じさせました。