2025.03.14
「名画を見る眼 Ⅰ」(高階秀爾著 岩波新書)の次の単元はレオナルド・ダ・ヴィンチの「聖アンナと聖母子」とラファエルロの「小椅子の聖母」で、2人ともイタリア・ルネサンスを代表する画家です。まずレオナルドから。「レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452ー1519)は、ラファエルロやミケランジェロとともに、盛期ルネサンスを代表する天才である。彼の多方面にわたる活動のうち、絵画の分野で彼が成し遂げたことは、遠近法や明暗法など、15世紀のイタリアが追求したさまざまな新しい技法を集大成して、完璧な絵画表現を作り上げたことである。~略~ルーブル美術館の油絵の方では、聖母の両腕をはじめ、脚も、頭もすべて斜めになっており、聖アンナの腕や脚でさえ、やはり斜めの方向を強調している。このように動きの多い群像をぴたりとピラミッド型におさめて、ダイナミックな効果を保ちながらしかも安定した印象を与えるように構成したところに、レオナルドの絶妙な技巧が見てとれる。そして、その安定した構図を永遠不動のものとするため、構図上の最も重要な点、すなわちそのピラミッドの頂点に、聖アンナのあの神秘の微笑が置かれているのである。現実と理想とを巧みに統一した見事な構成と言うべきであろう。」次にラファエルロ。「彼はレオナルドより30歳も若く、ミケランジェロと比べてさえ8歳年少であったが、それだけに、レオナルドやミケランジェロも含めて、多くの先輩たちが成し遂げた成果をすべて吸収して、理想的な美の世界を創り上げた。~略~ルネサンス期に支配的であった新プラトン主義の思想によれば、この地上の世界も、何がしかは理想の世界を反映している。つまり理想は現実を否定したところにあるのではなく、現実を延長した先にあるものなのである。とすれば、その理想の世界に達するために、まず現実から出発するのは当然であろう。理想の美を描き出すには、現実の美をしっかりと捉えておかなければならないのである。この『小椅子の聖母』の聖母には、ラファエルロの恋人であったというフォルナリーナの面影がうかがわれるが、それもその意味から言えば当然のことであった。つまりラファエルロは、恋人の姿を通して、永遠の美をこの世に実現しようとしたのである。」今回はここまでにします。