2025.03.18
「名画を見る眼 Ⅰ」(高階秀爾著 岩波新書)の次の単元はレンブラントの「フローラ」とプーサンの「サビニの女たちの掠奪」を取り上げています。まずレンブラント。「ティツィアーノの影響のもとに描かれたこのレンブラントの『フローラ』が、はっきりと違った性格を持っていることに気づく。そこには、ティツィアーノやその他のヴェネツィア派の作品に見られる官能的な性格も、風俗的な要素も、まったく見られないからである。なるほど、このヘンドリッキエのフローラはティツィアーノと娼婦と同じような白い衣裳を身にまとっているが、身だしなみはきちんとしていて清楚であり、何ら疑わしげな様子は見えない。花を差し出す動作も、人を誘うというよりは慎ましやかな愛情の表現を思わせる。何よりも、柔らかい光に照らし出された端正なその横顔に、モデルに対する画家の深い愛情が感じられる。それは、外面的な美の表現でもなければ風俗的な描写でもなく、内面的な共感と愛情とに結ばれた人間的な表現なのである。レンブラントは、かつてサスキアに対してそうしたように、ヘンドリッキエを花の女神に仕立てることによって彼女に対する深い愛情を語っているのだが、それと同時に、フローラのイメージをも変えてしまったと言ってよい。」次にプーサン。「プーサンのこの作品は、きわめて激しいバロック的表現を持っている。もともと『バロック』と呼ばれる様式は、古典主義の典雅静謐な表現と対照的にダイナミックな力動感を特徴とするが、このプーサンの作品でも、ネプチューンの神殿の上に立つロムルスとその周囲の2,3人のローマ人たちを除いて、大勢の登場人物たちが、皆可能なかぎり激しい身振りや動作を示している。~略~しかしながら、プーサンのこの『掠奪』の画面は、単にバロック的であるだけではない。個々の人物のポーズはたしかに激しい捩れや動きを示しているが、全体の構図から言えば、逆に安定した古典主義的表現への指向を明らかに見せているからである。それは、ひとつには、画面の左右、および背景が建物で仕切られていて、あたかも芝居の舞台のようにはっきりした場面設定がなされているということにも由来するが、それ以上に、その舞台で演じられるドラマが、一見無秩序なように見えながら、実はきわめて安定した基本様式にのっとっているからである。事実、この広場における群衆を支配する構図は、レオナルドやラファエルロが好んで用いた三角形のいわゆる『ピラミッド型構図』なのである。」今回はここまでにします。