2025.05.09
現在制作中の新作に「発掘~跨橋~」というタイトルをつけました。従来の作品はイメージを優先して具現化したものが多かったのですが、「発掘~跨橋~」は、まず素材ありきで制作が始まりました。祖父母や両親が住んでいた実家は、私が生まれる前には藁吹き屋根だったと聞いていますが、それをトタンで補強していたところ、私が小学生だった頃に改築をして瓦屋根になりました。土間にあった台所や五右衛門風呂はなくなっていましたが、旧家らしい雰囲気は残っていました。その実家を解体して集合住宅を建てたのは一昨年のことでした。解体するにあたって旧家を支えてきた大黒柱を私は棄てるにしのばず、業者に頼んで柱を工房に運んでもらいました。これを彫刻作品にしようと私は考えましたが、柱に下手な細工はせずに、そのまま利用することにしました。柱を床に倒して置き、両側を陶彫作品で固め、その陶彫作品を陶による橋で繋ぐイメージが浮かびました。柱には最小限の彫り込みだけを入れました。陶彫の橋で物質を跨ぐ考えは以前からあって、旧作にもその片鱗は出ていました。2017年に発表した「発掘~座標~」がそれで、土台をテーブルにして、その卓上に広がる世界を表現していました。新作の「発掘~跨橋~」の跨ぐ物質は大黒柱ですが、表面は炙って陶彫部品との調和を図ります。私は木材そのものを生のまま利用したこともありましたが、厚板材の場合は砂マチエールを硬化剤で定着させて、油絵の具を染み込ませて利用したこともありました。今回のように表面を炙って煤を擦り落として、年輪を出す方法も過去に試したことがあります。使う木材が嘗てどのように使われ、どんな時を刻んできたか、私にとって造形をする上で重要な一面でもあるのです。加えて今回発表する作品には立体作品の「発掘~跨橋~」だけでなく、壁に掛ける平面作品もあり、その繋がりを考慮して、平面作品にも炙った杉板をコラージュしています。平面作品には物質を跨ぐ要素はありませんが、そこは立体作品と平面作品の方向性を変えています。