Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

池田宗弘「修道士と悪魔(未完)」
例年この時期は国立新美術館で「自由美術展」が開催されていて、師匠の彫刻家池田宗弘先生が出品しています。今年は案内状が先生から送られてこないので、心配をしておりました。今日が同展の最終日なので、昨日先生に電話をしたら、お元気な声が聞けて私は安心しました。先生は86歳という高齢なので、何があってもおかしくないと思っていました。身体が痛い日があって作業は難儀していると、先生にしたら珍しく弱音を吐いていましたが、真鍮直付けという技法は溶接が多く、同じ姿勢で作業をしなければならないため、身体への負担は相当のものだろうと察しました。今回は締め切りギリギリまで制作をして、なお未完成で搬入をしてしまったようで、数十年間も同展に出品された先生の作品で、未完成の作品を私は初めて見ました。他の作家から鋳造と言われていた作品が真鍮直付けだったことが、図らずも露呈してしまった形になりましたが、独特な制作技法を持つ先生の個性が際立つ結果になったわけです。昼頃、同展の会場にいたら池田先生が現れました。長野県の聖山高原から東京の六本木に、先生は搬出作業にやってきたのですが、彫刻出品者の控室に案内されて、私は久しぶりに先生と積もる話が出来ました。先生の制作意欲は衰え知らずで、今回未完成の作品「修道士と悪魔」を近いうちに完成させて、どこかで発表をしたいとおっしゃっていました。先生は以前住まわれていた東京秋津の工房兼住居を売り払って、現在は長野県だけで工房を一本化したため、気持ちは随分楽になったようです。先生が奥様を亡くされて、たった一人で長野県の山奥に暮らしている生活を、私は時折思い返しては、高村光太郎状態の池田先生にとって孤独に悩まされることはないのだろうかと思うことがありますが、創作活動がそれを救っているように思われます。私も工房にいて作業をしている時は孤独を感じず、この状態があらゆる生活面でも続いているのだろうとイメージしています。今日は予定を変更して国立新美術館まで出向いて、池田先生にお会いできたことを嬉しく思いました。