今日は家内を誘って茅ケ崎市美術館で開催されている「牧野邦夫」展に行ってきました。画家は既に故人となっていますが、2013年に練馬区立美術館で個展が開催されていて、私は同展を見ていました。魂が込められた緻密な写実画が印象に残りましたが、どの絵画一つとっても全力で描き込んだ世界観に息苦しさも感じました。今回の展覧会で当時の記憶が甦りました。本展も多くの自画像があり、柔和な表情をした自画像は一点もなく、こちらをじっと見つめる画家の眼差しの強さに牧野ワールドらしさが伝わってきました。写実画はその巧みさに目が奪われますが、画家がその技巧を使って何を表現したかを捉える必要があり、また時代を経て広がる対象にも考えを巡らせました。自己の精神を削り取るような画業の在り方は変わらないものの、53歳の時に妻となるモデルとの出会いがあって、画中に美しい女性が登場してきました。人物を描くことに長けた画家は、やがて群像を含めた壮大なテーマに挑んでいくことになるのです。図録に評論家による「海と戦さ」に関する文章がありました。「『いかにもギリシャ・ローマ的な肉体表現が脈打つこの壮大な油絵の主題は、じつは日本の古典である。画面上部には、〖平家物語〗のテキストが、癖のある書体で描き込まれている。(中略)しかし、画家は時代考証をして忠実に再現するわけではなく、洋装の人物がいたり、武具も洋式であったりする。日本の古典を発想源とし、その物語を想念のなかでさんざん煮詰めた末に、みずからが拠処としてきたヨーロッパ古典絵画のイメージと混交して生み出された、カオスとしての物語絵画なのである。(後略)』牧野邦夫は、終生レンブラントを敬愛し、ヨーロッパ古典絵画の技法に憧れた油絵を描き続けた。しかし、晩年にはこの《海と戦さ》のような、日本の古典を題材とする作品、あるいは芥川龍之介の小説を題材とするなどを多く遺した。私はそんな牧野の『先祖返り』した作品を高く評価したいと思っている。」(山下裕二著)本展はNHK「日曜美術館」の影響もあって、平日にも関わらず大勢の鑑賞者がいました。昼食には家内と本館2階のカフェで洒落た昼食をとりながら、海沿いの美術館の風情を楽しみました。