陶彫「発掘」シリーズXVI
ご来廊ありがとうございました。
今日、彫刻の師匠である池田宗弘先生から1本のCDが送られてきました。少し前に池田先生から電話があって、その時に自宅兼工房であるエルミタの作業風景を4Kの映像に収めたという話がありました。その映像を作られた映像作家の中屋重男氏から私宛のパソコンにメールが来て、私はその内容を知ることができました。私はその映像を自分のスマートフォンに落とし込んで、自分の工房に携帯していき、作業の合間に見ていました。池田先生が真鍮直付けの作品を作られている様子は、私に意欲を与えてくれます。その映像作品は「エルミタの猫 海を渡る」というタイトルがつけられていて、イタリアにある日本食レストランに、先生が作られた猫の彫刻が数体、設置されることになったことが契機になって制作されたようです。その猫の作品の中には1970年代に制作された「ああ、なんという生き方」がありました。その作品は複数の猫が餌に向かって忍び寄る様子を描いたもので、私が大学に入学して間もない頃に、東京都美術館で開催されていた展覧会に出品されていました。私はその作品を見て感動を覚えました。猫は胴体に穴が空いていて、それでいて何とリアルなことか、しかも何と生き生きとしていることか、通常の写実では表すことができない緊張感が漂っていました。その感動こそ、私がこの彫刻家に師事しようと決めた瞬間でした。あれから40年以上が過ぎて、池田先生は折に触れ、私に彫刻家としての心得や空間の捉えを教えてくださいます。どんなに時間が過ぎても、彫刻と言う表現の奥が深いために、池田先生とは常に新鮮な会話があります。それにしても「エルミタの猫 海を渡る」には美しい自然がそこかしこに映し出されていて、池田先生が東京から長野県に移られた理由が分かります。そこに佇む数多い真鍮直付けの作品も周囲の森に馴染んで、その森一帯が池田先生の世界観に染まっているなぁと感じています。