「ロマネスク美術革命」(金沢百枝著 新潮選書)の「第4章 かたちの自由を求めて」の気に留まった箇所を取り上げます。「アーチや側柱に彫刻がほどこされると、華麗さはいっそう増幅された。さらには、扉口が聖と俗の境目であること、つまり聖域である堂内と俗界である外部とを分かつ特別な場であるという、ファサードの象徴的重要性が鮮明に印象づけられるようにもなった。~略~ロマネスク的な身体はねじれ、よじれ、そして歪む。ときに長く引きのばされ、ときにコロコロ丸くなる。自在に変形するのだ。この歪み、あるいはこのかたちの自由を、どう捉えればよいのだろうか。代表的な通説はふたつある。ひとつは、『枠組みの法則』。格組みの法則に従うと、建築部材のかたちを優先させるため、図像の形態には一見すると不自然な、いわば非写実的な変更が加えられる。~略~もうひとつは、いわゆる『隙間恐怖』である。聖堂の扉口に立ち、テュンパヌムを仰ぎ、そこにびっしりと隙間なく入り組んだロマネスク彫刻を見ると、たしかにそう言いたくなるかもしれない。~略~ロマネスクの彫刻家は現実世界の再現に重きを置いていない。もっと自由に、あるいは伝えたいことを的確かつ効果的に伝える術を、彼らは模索していた。キリスト教の教義とは限らない。恐怖や喜びなど、原初的な衝動を覚醒させるような喚起力のあるイメージを求め、それを見事に彫琢してみせた。」ロマネスク美術ではイニシャル装飾も見られます。「島嶼系写本で一般的だった文字を飾るという習慣と、古代以来の再現芸術との融合によって生じたイニシャル装飾の変容は、ロマネスク期に植物から生き物や物語へと刷新されていった柱頭彫刻の変容過程と重なっている。~略~記号であり情報の一部である文字と、建物を支える部材の一部である柱頭やテュンパヌム。そこにほどこされた装飾と像には、どちらも聖なる世界と俗なる世界、抽象と具象の境界にあって人々の目を引きつける機能があり、そしてその役割を十全に果たしている。『枠』との微妙な緊張関係の上に成り立つ動的なエネルギーこそ、ロマネスク美術の真髄と言ってよい。」今回はここまでにします。