今日の午前中は工房で陶彫制作に励み、午後になって渋谷区広尾にある山種美術館で開催している「川合玉堂」展に一人で行ってきました。恵比寿駅から傾斜の緩い坂道を登った先に山種美術館があります。午後は気温が30度を超えていて、茹だるような暑さの中を、汗を流しながら坂道を歩きました。美術館には川合玉堂による爽やかな日本情緒あふれる世界が待っていると、自分を励ましながら美術館へ行きましたが、期待は裏切られず、実に端正で、きめ細やかな風景画群がそこにありました。まさに清涼感と言えばいいのか、その隅々まで丹精込めて描かれた世界は外の酷暑を忘れさせてくれるような緊張感が漂っていました。図録には「玉堂は、円山・四条派の基礎の上に狩野派の様式を取り入れ、伝統的な山水画から近代的な風景画へと新たな境地を拓きました。」とあり、日本画壇では正統な画家として認められた存在でした。会場には代表作も数多くありましたが、私は墨の濃淡と掠れだけで驟雨を表した「雨江帰漁図」の湿気を含んだ表現が好きで、また、うっすらと薄日の当たる風景も感じ入って、暫し立ち止まって眺めていました。図録に画家の苦労が綴られていて、何気なく描かれたものに大変な苦労をされていたことが分かりました。「自然の光景に於て光の面白いところ、例えば日光の雲に映じた快き色を見て、其の光や色の好い感じを画き現わそうとしても、日本画の絵具や縑素では充分なる効果を収めることが困難で、材料の不充分を感ずることが多い。自分は酷だ自然の風景を愛し、常に其観察に努めつつあるが、中々に感じたるままを画き現わす能わざることが多い。ー今は苦しき時代である。併し苦の多いだけ、随うて面白味も多い。」現在の日本画は世界的に見てもかなり特殊な画法によって、世界中の人々を魅了しているのですが、墨ひとつでさまざまな技法を生み出し、そこに深淵な世界を内包しているわけです。私はそれが日本人としての誇りでもあり、その世界を味わい尽くすことが日本人としての自覚だろうと思っています。周囲の自然は徐々に失われてしまうかもしれませんが、玉堂の描いた世界が昔懐かしい記録ではなく、私にはまだその世界に浸れるものを有していることに幸福を覚えます。