「ピクチャレスクとイギリス近代」(今村隆男著 音羽書房鶴見書店)の「第2章 ピクチャレスクと観光」の中の「2ピクチャレスク理論の実践」を取り上げます。これはギルピンの著作「湖水地方観察紀行」が中心となる論文になります。ここで有名なナショナル・トラストの考え方が登場します。「土地所有者達は『好ましい趣味』を持って土地を管理する責務を担っているのであり、それによってその土地は『一種の国民全体の財産』と呼べる場所になる。この考え方がのちのナショナル・トラストや国立公園の創設の礎石になっていったということはよく知られている。ギルピンは廃墟の保護について、それがのちの世代のための『預託物』であり、所有者は単なる保護者にすぎないと言っているが、まさにこの「預託」あるいは『信託』と言う考え方を実践する公共の組織として作られたのが、ナショナル・トラストだった。~略~彼の描いた風景は、外面的な特徴を詳しく正確に描くということを基本にしており、表象的要素に多くを依存した18世紀前半までの手法から脱却し、一定のルールの中においてではあるが観察による対象の客観的な描写を目指したという点にその意義がある。~略~言語によって眼前の風景を読者に伝えることの難しさに彼は直面することになり、一度自らが否定したアナロジーや想像力といった観念的な手法に支えられた描写を部分的にせよ再導入することになる。『湖水地方観察紀行』には、観察力と想像力、客観と主観との狭間で揺れるギルピンの時代感覚が読み取れる。『湖水地方観察紀行』のもう一つの特徴は、伐採された森林や崩壊してゆく廃墟への言及がしばしば認められることであった。これは旅の途中でギルピンが仔細に風景の変化を観察していた証拠であるだけでなく、彼が自然と人間との関係について考究する手がかりともなっている。森林の伐採はこの時代の人間による自然破壊行為の代表的な例であるが、一方で廃墟をのみ込む植物の生命エネルギーは人為を越えた自然の力の象徴である。」今回はここまでにします。