2026.05.05 Tuesday
先日、東京の六本木にあるサントリー美術館で開催されている「河鍋暁斎の世界」展に行ってきました。河鍋暁斎は私の中で最も高評価な絵師で、展覧会には必ず行くようにしています。それは私が幼い頃から妖怪趣味があり、そこだけは親から疎まれていて、さらに成長につれて、嘗て自分が妖怪好きだったことを忘れていたのを思い出させてくれたのが絵師河鍋暁斎だったのです。神社仏閣には魑魅魍魎が棲んでいると幼い私は信じていて、大人になった私が河鍋ワールドで見た滑稽な画題と、前から抱いていたイメージが重なった瞬間でもあったのです。ともかく本展のイスラエル・ゴールドマン氏収集による作品の数々は、初めて見るものばかりで私の心は高まりました。河鍋暁斎がこうした画題を取り上げるようになった背景を図録より探っていきます。「暁斎は、幕末から明治初期の変わりゆく世の中で、絵師としての活路を見出すために狩野派の世界を超えて自らの創作領域を広げ、狂画を手がかりとして新しい絵のあり方を模索した。その結果、辿り着いたかたちが、本画と狂画の融合であった。卑俗で品格に欠けるとして狂画、そして狂画に深く関わった暁斎を批判する声は暁斎在世中から聞かれ、戦後の日本美術史研究においても暁斎の評価に否定的な影響を及ぼしたが、ダイナミックで、ユーモアにあふれ、現代の私たちにも通じる普遍的な生活感情が表現された暁斎の作品世界は、狂画なしには生まれ得なかった。~略~狂画の中で、動物、鬼、神仏は人にぐっと近い存在となる。動物の姿を借りて、当代社会を揶揄したり、恐ろしい存在、威厳のある存在、聖なる存在を人間くさく描くことで可笑しみを誘ったり、というのは狂画の手法である。これらの遊び心あふれた『けもの』『ひと』『おに』『かみ・ほとけ』の絵が明らかにするのは、暁斎の鋭くも、決して突き放したような冷たさはもたない、好奇心に満ちた人間観察の目である。」(定村来人著)また私は現代において若い世代に支持される劇画や戯画、アニメにも河鍋暁斎の世界が生きているように感じます。さらに日本人の民俗性にある闇の部分にも画風が照射しているように思えてなりません。
2026.05.04 Monday
先日、汐留にあるパナソニック汐留美術館に「ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶」展を見に行きました。画家ルオーはキリスト教を主題とした油絵や版画を数多く残した巨匠ですが、私の若い頃はルオーの世界が理解出来なくて、何故ルオーの作風が認められているのか分からなかったのでした。厚塗りで技巧的でもなく、太い輪郭に平塗に近い筆致で描かれた風景や人物は、一見すると何が描かれているのか判別できないと思っていました。パナソニック汐留美術館にはルオーの常設展示があって、いろいろな企画展で訪れる度に、私はルオーの絵画を見ていました。自分の加齢のせいか、次第にルオーの世界が私の心に沁みわたってきて、絵の具の厚みと共に画家の内面性が重なり、蓄積された重厚な場面に惹かれていきました。私が学生の頃は絵画技巧の巧みさばかり目についていたので、ルオーを拒絶することさえあったのでした。ルオーの宗教観について図録にこんな語句がありました。「祈りの言葉を繰り返し唱えるかのようなルオーの瞑想的な制作姿勢の凝縮」とあり、まさに祈禱を伴い、寡黙に取り組んだ彼の姿勢の痕跡と言えます。本展の目玉は、制作の現場を再現した空間が提示されていて、ルオーの創作への息吹を感じることができました。図録より引用します。「200本を超える大小様々な筆、山のように積まれた油絵具のチューブ、パステルや木炭や墨やインク、液体画材用の数々のガラス瓶、多種多様なパレットナイフやスパチュラなどの道具、彩色のある額や裏打ち板、書き込みがされたカルトン(紙ばさみ)。こうした晩年のアトリエに残されている画材の豊富さと多様性は、複数の作品に手を加え続けたルオーが、様々な画材、技法等を自在に行き来していたことを物語る。また、画材ではないが、同じくアトリエに残る夥しい数のエボーシュ(画稿)は、彼の造形性や構想が最も純粋に現れた制作初期の痕跡であり、アトリエの中でもひときわ目を引く興味が尽きない作品群である。」(荻原敦子著)
2026.05.03 Sunday
日曜日になりました。日曜日は創作活動についてNOTE(ブログ)を書いています。今回は5月になったので今月の制作目標について述べていきます。現在ゴールデンウィーク真っ只中で、高速道路は渋滞が発生しております。私は工房で制作三昧を決めていて、相変わらず創作中心の日常生活を送っています。今月は夏の個展に出品する作品の完成を目指します。陶彫部品で構成する集合彫刻1点は既に完成していて、多少修整はあるものの現在は工房の隅に置いてあります。陶彫による小品4点も完成しています。今月頑張るのは、壁に掛ける4点の平面作品の完成です。この4点は1点ずつに炭化した杉板をコラージュするもので、杉板は既に完成しました。その杉板を生かすための下地を油絵の具で塗装する作業が残っています。4点のパネルにジェッソを塗っていて、そこに鉛筆で下書きをしている最中です。写実的なモティーフではないので平塗を基本にしようと思っていますが、最終的な技法については今後の思索の中で決定していきます。これは絵画的な仕事だなぁと思っていて、いくら素材を生かすためとはいえ、自分の中ではあまりやってこなかった運筆による作業なのです。そこに色彩もあり、RECORDの制作を思い浮かべながらやっていこうと思います。今月はRECORDにも拍車をかけるつもりです。1日1点ずつ葉書大の平面作品を作ってきたRECORDですが、最近は遅れ気味でちょっと焦っています。これは発想力が求められるので、RECORDの継続は自分にとって大変有効です。焦らず休まず、ではなく、焦りながら休まず、やっていく所存です。今月の鑑賞も充実させたいと思っていて、既に初日で3つの展覧会を回りましたが、まだまだ面白そうな展覧会や映画等があったら、どんどん出かけます。読書は現在ロマネスク関連の書籍を読んでいますが、結構楽しくて、自分なりに拘ってみたいところが随所にあります。とりわけ教会建築は興味津々で、もう一度ヨーロッパに行ける機会があったら、思いきり味わってきたいなぁと願っています。
2026.05.02 Saturday
週末になりました。土曜日はその週の振り返りを行ないます。今週は4月から5月へ移行した1週間でしたが、ゴールデンウィークが始まっていて、テレビの情報番組では高速道路の渋滞情報を流しています。嘗て私が教職に就いていた頃は、連休で制作時間が確保できて嬉しさでいっぱいでしたが、現在の自分の状況では混雑する観光地には行かず、ずっと工房に籠っていようと思っています。さて、今週は鑑賞三昧で過ごした1週間と言わざるを得ないほど、東京から横浜まで美術館を巡っていました。新作の制作では壁に掛ける4点の平面作品の下地に絵の具で塗装を施すため、その下書きをやっていました。それより今週は木曜日の午後と金曜日の丸一日を使って4つの美術館を巡ってきました。木曜日に出かけたパナソニック汐留美術館で「ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶」展は、舟越保武の彫刻に触発されて、その宗教性を考えるためフランス屈指の宗教画家の展覧会を見に行ったのでした。金曜日の午前中は国立新美術館で開催している「国展」に行きました。教え子が工芸部門に染めを出品していて、彼女にとっては祝うべき初入選なのでした。その後、サントリー美術館の「河鍋暁斎の世界」展を見に行き、河鍋ワールドの毒気にあてられそうになりながら、画風を大いに楽しみました。六本木駅から日比谷線、東横線、みなとみらい線に乗り継ぎましたが、実はずっと繋がっていて乗り換えなしで、みなとみらい駅まで到着しました。鉄道路線は便利になった反面、行程が長くなったせいか事故等で遅れることが屡々あります。みなとみらい駅で下車し、横浜美術館の「今村紫紅」展に行きました。私の地元の美術館なのに、当館がリニューアルして初めて訪れた美術館でした。確かに壁が綺麗になっているなぁと思いました。今村紫紅は横浜出身で35歳で夭折した日本画家で、その筆致はきめ細かく、また大胆な構成もあり、革新的な画風を味わいました。「国展」を除く他の3つの展覧会について詳しい感想を追々書いていくつもりです。
2026.05.01 Friday
5月になりました。5月の制作目標は別の機会に回すとして、今日は昨日に引き続いて美術館巡りを行ないました。まず最初に訪れたのは東京の六本木にある国立新美術館で、ここで開催されている「国展」を見に行きました。週末は工房に出入りして染織をやっていた美大生が、卒業制作の染めを「国展」に応募して入選を果たし、その招待状を工房に持参してきたので、彼女の力作をもう一度見てこようと思ったのでした。作品は女子美大卒業制作展で既に見ていましたが、公募団体の中で見る作品がどう映えるのか確かめたかったのが来館の理由です。彼女は就職もするので、翌年は時間が制限される中での応募になり、以前の私と同じ二束の草鞋生活になります。時間が自由に使えた大学生生活とは異なり、厳しい中でも作品の水準を保てるのかが今後の大きな課題です。ただし、彼女には具体的な指標が見えているし、相原工房も使えるので、後は本人の頑張り次第というところでしょう。「国展」(国画会)は100年の歴史がある大きな公募団体で、絵画や彫刻も数多く展示されていました。見て回るだけで疲れましたが、せっかく六本木まで来たので、もうひとふんばりしてサントリー美術館にも立ち寄ることにしました。ここで開催している「河鍋暁斎の世界」展はイスラエル・ゴールドマン氏収集による本邦初公開の作品があり、疲れが吹き飛ぶほどの楽しい展示内容でした。河鍋暁斎の描く魑魅魍魎や蛙や猫に私は何度魅了されたことか。今回も例外ではなく、その描写の巧みさに心が揺さぶられました。詳しい感想は後日に改めます。描写の巧みさという点で言えば、次に向かった横浜美術館で開催されている「今村紫紅」展も、日本画に自由闊達な表現を模索した画家の足跡を辿った展示内容で、享年35歳で亡くなったのが信じられないほどの力量を感じさせてくれました。これも詳しい感想は後日に改めます。今日は東京から横浜まで3つの美術館で開催されていた3つの展覧会を回り、気持ちは充実していました。今月は制作だけでなく、観賞にも頻繁に出かけていこうと思っています。