2013.02.08
「マチスの肖像」(ハイデン・ヘラー著 天野知香訳 青土社)を通勤途中に読んでいます。マチスが生きた時代に美術界を席巻したキュビスムに対して、マチスが自己芸術観と相容れないキュビスムと葛藤している様子が窺える箇所があります。「キュビスムが勝利を収めた時期は私にとって困難な転機だった…私はキュビスムという他の人たちが行っていた実験に加わらないほとんど唯一の人間だった。それは、ますます追隋者を増やしてゆき、これまで以上に評判を高めていた方向へ参加しない、ということを意味したのである…私は、実験、解放、色彩、力としての、光としての色彩の問題、といった自分の探求に閉じこもり、守りを固めていた。もちろんキュビスムに関心はもっていた。しかしそれは生命をはらむ線やアラベスクを大いに愛する私の深い感性には訴えかけなかったのである…私にとってキュビスムへ向かうことは私の芸術信条に反することとなったろう。」マチスが語ったコトバには時代の流れに惑わされない強い意志が感じられます。マチスは時代を変えるような大きな運動の中心にはならなかったし、また自身も芸術運動の牽引者とはなりませんでした。でも、マチスは絵画上の偉大な足跡を残しています。意志を貫く姿勢を感じさせる一文だと思いました。