2026.03.05
今日の午前中は工房で作業を行ない、午後から東京の新宿にあるミニシアターに映画「死の天使ヨーゼフ・メンゲレ」を観に出かけました。今日は私一人で行きましたが、嘗て私は岩波ホールで「メンゲレと私」というドキュメンタリー映画を観ていて、D・ハノッホ氏のインタビューに強烈な印象がありました。本作は新聞の映画評で知り、戦後メンゲレが南米に逃亡を図り、そこでどんな潜伏生活を送っていたのか、私には興味が尽きませんでした。医師ヨーゼフ・メンゲレは、アウシュヴィッツ収容所に送られてきたユダヤ人に対し、労働可能か否かを選別し、労働に耐えない人はガス室送りとなるが、そこで人体実験も行ったようです。図録によれば「彼らは『劣等人種』と『優等人種』の違いが遺伝子により裏付けられているのだと信じ、遺伝研究でそれを証明しようとした。メンゲレは収容者の血液を標本として採取し、人種に特有の蛋白質を見つけようとした。」(柳下毅一郎著)本作では収容所で人体実験を行う場面をカラーで表現し(それは顔を覆いたくなる場面も含まれていましたが)、南米での潜伏生活をモノクロで表現しています。まるでメンゲレにとって収容所時代が生涯の中で一番煌めく時代だったようにも感じました。その後に続く無味乾燥な時代が裁きと復讐から逃げ惑った時代で、本作ではここを中心に据えて、殺人者は己自身の幻影に追われる如く、憔悴の中で、時に周囲の理解者に癇癪を引き起こすこともあったのでした。それでもメンゲレは相変わらずドイツ民族の優位性を信じ、ヒトラーを敬愛し続けることが、私たち観客を戦慄させるのに十分な口撃力がありました。私はこんな実話を土台にしたドラマに真っ向から挑んだ制作者たちに作り手の覚悟を見ました。本作はそのテーマ故に多くの観客を惹きつけることはないと思いましたが、一人の怪物を丁寧に描くことに拍手を送りたいと思っています。ヨーゼフ・メンゲレは為名のままブラジルのサンパウロで69歳で絶命しました。海水浴中の心臓発作が死因で、裁きを受けたわけではありません。ただし、その後の調査によって埋葬された遺体がヨーゼフ・メンゲレと判明したのでした。私が今まで観た映画の中で、モヤモヤして納得のいかない結末を迎えた映画は他にないと思っています。その分、強烈な印象が残ることになりました。