2012.08.22
先日、東京の練馬区立美術館で開催中の表題の展覧会に行ってきました。船田玉樹という日本画家を自分は知りませんでした。展覧会の大判のポスターが目に入り、その紅い花を散らした斬新な構成に惹かれてしまいました。船田ワールドは、黒々と描き込まれた松葉や艶やかな花一面が画面中央にどっしりと居座り、並々ならぬ存在感を示していました。その中で自分は船田ワールドにしたらやや小さめな暗い画面に引き寄せられました。それは「梅林」(1987年)と称する水墨画で、その複雑に入れ乱れた幹や枝が、深遠な闇から立ち現れ、一時煌めいて再び消えていくような錯覚に陥りました。絵画には幻視的な方向があり、光と闇を駆使しながら描く心象世界は絵画表現の魅力のひとつです。図録ではそれが平坦に見えるのが残念ですが、実物は幾重にも深まる空間を感じました。展覧会に行くと、その人の代表作ではなくても、自分の感覚に訴えてくる作品に出会えます。それは鑑賞者個々によって捉える作品が違ってくるものだと思っています。そうした出会いがいいのです。一人の日本画家が走り続けた軌跡、時に病を抱えながら自己の心を吐露した作品、そんな創作者の心情を思いながら展覧会場を歩いていました。