2018.04.20
先日、千葉市美術館で開催中の「百花繚乱列島」展に行ってきました。全国津々浦々から集められた江戸時代の絵師たちによる秀作の中で、私がその場を立ち去り難くなった作品がありました。日本美術史に残る名作ではなく、また新しい価値が見いだされるものでもなく、私だけが感じ入るような作品でしたが、本来芸術作品に対する興趣とはそんなものではないかと思います。図録の解説も少なく、絵師の詳しい背景を知ることが出来ませんが、その薄暗い水中から鯉が群を成して迫ってくる世界に、不思議なリアリティを感じてしまいました。作者は黒田稲皐、鳥取画壇で活躍した絵師だそうです。「群鯉図」は文政10年の作品と天保7年の作品の2点が展示されていました。師匠の土方稲嶺の「蓮池遊鯉図」も展示されていて、その緻密な運筆に、この師匠にしてこの弟子あり、と思わせる風格を感じさせました。黒田稲皐は師匠から「稲」の文字を継いだことが記録されています。鯉は群を成していても、それぞれ立体的に描写されていて、鱗一つひとつの規則正しい幾何模様が美しいと感じました。色彩としては僅かな色味を用いて、明度差によって個を描き分ける描写に、西洋絵画のような遠近感が漂い、また水中の様子を描きながら、そこに空気感を感じさせる空間の捉えがありました。私は線描や平塗りの美しさも理解しますが、何より立体空間の現出に敏感に反応してしまいます。立体と立体感はまるで異質なものだと私は考えていて、立体感は絵画のみに許される素晴らしい技法ではないかと常々思っているのです。立体ではないにしろ、そこに立体物があるかのような錯覚を楽しめるのは、絵画の醍醐味のひとつだろうと思っています。黒田稲皐の「群鯉図」はそんな絵画ならではの良さを味わえる作品でした。