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映画「希望の樹」雑感
ジョージア(グルジア)映画「祈り 三部作」のうち「希望の樹」について詳しい感想を述べてみたいと思います。「希望の樹」は1976年にテンギズ・アブラゼ監督によって制作された映画で、数々の国際的な賞に輝いています。暫くお蔵入りしてしまった「祈り」と比べれば、日の目を見た映画だったようです。原作はギオルギ・レオニゼで、古い因習が残る村が舞台です。村にやってきた美しいマリタとそこで暮らす牧童ゲディアの恋愛が中心となり、一癖も二癖もある個性的で泥臭い村人たちが登場します。過去の栄光に縋る学者風情の男、奇跡を信じ希望の樹を探すうちに落命する男、恋の遍歴を想像して生きる老いた女、色香を振りまく若い女、大樹の下で噂に興じる女たち、およそ建設的ではない人の中で、長老だけが賢く見えますが、彼は貧困を理由にマリタを金持ちに嫁がせるのでした。嫁いだ先でもゲディアを忘れることができないマリタ。それが判明したため、村の慣習に従ってマリタは雪の中で村中を引き回され、人々の好奇の眼に晒され、やがて亡くなるのでした。ゲディアも何者かに銃殺されてしまいました。私の印象に深く刻まれたのは、馬に後ろ向きに乗せられて村中を引き回されるマリタの凍るような表情でした。原作者レオニゼの幼年時代の思い出が綴られているようですが、私が20代の頃によく出かけたルーマニアの村々を彷彿とさせる雰囲気がありました。勤勉な農民や牧童がいて、その中に狂気じみた人が僅かに混じっていました。村人が彼を上手に受け入れているのを目の当たりにして、村の居心地と因習が絶妙なバランスを保っているのだろうと感じていました。映画「希望の樹」は群像劇のようでいて、役者一人ひとりが自然に振る舞う珠玉の場面の繋がりがあり、そのやり取りの面白さに時が経つのを暫し忘れました。