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「青騎士の誕生 カンディンスキーの舞台芸術」読後感
「青騎士の誕生 カンディンスキーの舞台芸術」(小林奈央子著 早稲田大学出版部)を読み終えました。以前「青騎士」(カンディンスキー/フランツ・マルク編 岡田素之・相澤正巳訳 白水社)を読んだ時に、カンディンスキーの戯曲「黄色い響き」が載っていて、どんなに読み込んでも理解に苦しむ場面が多かったのを覚えています。これはどんな舞台になるのか、演劇としての娯楽性を感じることが出来ず、劇場で見ていたら、狐につままれた気分になるだろうと思いました。本書では「舞台コンポジション」連作の丁寧な解説があって、衣裳やジェスチャーが何を意味するのか、キリスト教図像学等を参考に掘り下げた考察によって、発想の源や革新性が解ったように思います。さらに違う視点からの考察が登場すれば、カンディンスキーを取り巻く芸術的状況が一層進展していくだろうと思いますが、現在は本書を頼りにカンディンスキーの舞台芸術を紐解いていくことが良いと感じます。結論となる箇所を抜粋すれば「カンディンスキーの理解では、芸術家とは現代の人間の精神生活の危機に際し、精神への糧を与える騎士として選ばれた存在である。この新たな精神闘争においては、旧世界で闘争の根源となった文化・民族・宗教・言語といった差異を超越する世界芸術言語、すなわち抽象芸術こそが、新たな武器となり、芸術家はその武器をもって、全人類の精神の向上のために闘うのである。その意味で、〈舞台コンポジション〉とは、新しい“精神の時代”に立つ全ての人間と全ての芸術にカンディンスキーが捧げる“記念碑”であったと言えよう。」ということになります。カンディンスキーの精神的なる芸術は舞台の創作を通じて具現化していく過程を鑑みると、本書はカンディンスキー研究には重要な役割があると感じています。