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「黄金町マリア」を読み始める
現在読んでいる「夢解釈」(フロイト著 金関猛訳 中央公論新社)をちょっと休んで、「黄金町マリア」(八木澤高明著 亜紀書房)を読み始めました。本書の副題に「橫浜黄金町 路上の娼婦たち」とあります。街の浄化に伴い、警察の摘発によって現在では娼婦の面影はありません。アートによるモダンな街作りが行われていて、黄金町は生まれ変わろうとしています。私はアートを支持する者として、そうした動きを歓迎する一人ですが、幼い頃に訪れた時に、たまたま遭遇した闇の雑踏にも一抹の郷愁を感じることもあります。風俗の中で自分が育っていれば話は別ですが、そうでないとしたら風俗を被写体にするのは勇気の要ることではないかと察します。外国人娼婦に正面切ってカメラを向けることは、余程親しい間柄になっていないと難しいと思うからです。ドキュメンタリーを専門にするカメラマンは、たとえば戦場の真っ直中であったり、社会問題への提起であったり、人が顔を背けてしまいがちな場面に出かけていって、カメラに収める行動をしています。歴史を正視するリアルな記録は、私たちの胸を打ちます。こうした風俗の記録も同じだと思っています。本書には数々の写真とともに撮影のエピソードが多くの頁を割いて書かれています。ひとつの街とそこで暮らす人に関わりを持ち、さまざまな生きざまを受け入れてきた周囲の雰囲気、清濁併せ持つ一見無秩序な状況の中に、人の逞しさが垣間見えます。今は昔、消えていった街の闇の部分、貧困の中で喘いでいた人たち、これも街の歴史のひとつであろうと思う次第です。