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映画「猫が教えてくれたこと」雑感
先日、家内と横浜のミニシアターにトルコ映画「猫が教えてくれたこと」を観に行ってきました。舞台となったイスタンブールは、海岸に面した東西交易が織りなす情緒豊かな都会です。私は20代の頃に滞欧生活を引き揚げてくる際、イスタンブールに立ち寄りました。ウィーンから外人労働者が利用する帰省バスに乗り、イスタンブールに向かいました。当時は東欧圏にあった旧ユーゴスラビアやブルガリアでは通行ビザが必要で、ウィーンで各国大使館に手続きに行った覚えがあります。イスタンブールにはどのくらい滞在していたのか今では記憶にありませんが、少なくても1週間はいたのではないかと思っています。「猫が教えてくれたこと」はイスタンブールに棲む猫たちの生態を通じて、人と動物との関わりや庶民生活の有様を描いていました。猫目線で捉えた映像は、ガイドブックにはない新鮮な視点で、カメラは路上を這い回るように動き、エキゾチックな街を浮き彫りにしていました。精神的に追い詰められた人たちが、傍らで擦寄ってくる猫たちによって救われたエピソードを映像に収め、また7匹の猫の個性が際立つ仕草も面白可笑しく描かれていました。ジェイダ・トルン監督を初めとするスタッフたちの執拗なリサーチで、この楽しいカットが生まれたのがよく伝わりました。映画のパンフレッドに「究極の目的は、選び出したひと握りの猫のストーリーを通して、愛と喪失、孤独、そして帰属というテーマについて、思いを巡らせることができるような作品を創ることだった。」とありました。古代エジプトから船に乗って渡ってきた猫族は、この地域から欧州全土に広がっていったようです。東京のような近代化が進む都会では、猫はどう見ても棲み難いように思われます。逆にイスタンブールの旧態依然とした複雑な街並みであれば、きっと猫が徘徊する余地があるのかもしれません。今はイスタンブールも近代化に晒されていますが、人間臭さの残る街だからこそ猫が多く棲みつき、また闊歩できる空間があるのだろうと思います。