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映画「台湾、街かどの人形劇」雑感
昨日、横浜市中区にあるミニシアターに行って、映画「台湾、街かどの人形劇」を観てきました。台湾の布袋戯は街頭人形劇で、人形は手遣いによるものです。台湾にはその他に傀儡戯(糸繰り人形劇)や皮影戯(影絵人形劇)があるそうです。この映画の内容は伝統文化の継承やそれに伴う父子の葛藤を描いたドキュメンタリーで、時代と共に衰退の一途を辿る伝統芸能を映像による記録として後世に残す目的もあるように感じました。映画は布袋戯で人間国宝になった陳錫煌を追っていて、撮影当時88歳になった稀な技巧を持つ人形師に密着していました。彼の父は李天禄で、布袋戯をテレビで放映したり、フランス政府から勲章を受けた人物でした。台湾初の布袋戯博物館を設立した人間国宝としても存在感を示していたようです。その息子である陳錫煌は師弟関係にあった父に囚われ、決して平坦でない道を歩んできたことが独白から読み取れました。図録には「表情のない木偶(木彫りの人形)を操って、まるで本物の人間のように喜びや悲しみを繊細な動作で表現した。生(男性役)・旦(女性役)・浄(敵役もしくは豪傑)・丑(道化役)といった人形の種別を問わず、彼の手にかかると生命力が吹き込まれるのである。」とありました。実際の劇が映画の後半で流れましたが、その超絶技巧に思わず惹きこまれました。また国立伝統芸術センターで開催された布袋戯コンテストは、現代風の薄っぺらいアレンジを紹介していて、それを見た私は愕然としましたが、審査をしていた陳錫煌が「不真面目だ」と吐き捨てる場面もあり、伝統継承の難しさを実感しました。日本の人形浄瑠璃文楽は従来の型そのままに継承されていますが、庶民的な布袋戯は時代の求める新しさを取り入れていることが、文楽とは大いに異なります。現在は外国人の留学生も受け入れていますが、台湾では次第に社会のニーズに合わなくなっているのも事実です。嘗て庶民の芸能であった布袋戯は、芸術文化作品として国が保存に動き出しているようです。しっかりとした基礎を積んだ後継者が現れて、生き生きとした街頭人形劇が後世まで続くことを祈るばかりです。