Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

「状況-思考の神秘的内部を表すこと」について
「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)の「第二部 ゴーギャンの立体作品」の中の「第6章 タヒチからマルケーサスへ(1895~1903年)」の「1 状況」をまとめます。ここで私は副題をつけることにしました。本書は章の冒頭に「状況」という導入部分があります。その中で私は「思考の神秘的内部」という語句に注目をしました。フランスに一時的に帰国していたゴーギャンが、再度タヒチに渡航し、生涯を閉じることになるマルケーサス諸島のヒヴァ・オア島に至るまでの作品の変遷を本章では描いていますが、「状況」で論考された部分はゴーギャンの芸術的世界観を語る上で必要なことと考えられます。「絵画も含めて第二次タヒチ滞在中の作品は、第一次滞在中のものとは全く異なる様相を呈することになる。ゴーギャンはもはや土地と民族を知るための追究をする必要はなかった。以後彼が生み出そうとするものは、まさに彼の『思考の神秘的内部』を喚起する自らの芸術的世界なのであった。」これはゴーギャンの絵画にとって最後の黄金期とも言える時期で、美術史に残る作品を次々に生み出していったのでした。また、彼は植民地側の権力者や宣教師との間で激しい闘いをしていて、彼にとってはタヒチもマルケーサス諸島も南国の楽園とはいかない現実世界があったようです。「彼が最初に本国に対する植民地を、あるいは自分がそうである白人男性に対する植民地の女性たちを『他者』として捉えたのは1889年の万国博覧会の時に遡る。それはひいては、西欧の近代文明のもたらした頽廃の中で、活路を植民地に求めた帝国主義の成果を享受することにつながっていた。しかし自ら西欧ブルジョワ世界のアウトサイダーとなった彼にとって植民地の人々の他者性は、文明人としての自己と決別し、本源的自己を模索しながら野蛮人として再生するために、大切なよりどころであったことを忘れてはならない。まさしく自らの芸術にプリミティヴな価値を与えるために、白人男性芸術家ゴーギャンは、この他者性を自己のものとし、そうすることによって、ブルジョワ芸術を揺るがそうとしたのであった。したがって彼は、他者である植民地の人々に自己を同化するのである。彼が反植民地闘争に熱心に関わった理由はここにある。」