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「脳はいかにして抽象イメージを処理し知覚するのか」のまとめ
「なぜ脳はアートがわかるのか」(エリック・R・カンデル著 高橋洋訳 青土社)の「第8章 脳はいかにして抽象イメージを処理し知覚するのか」をまとめます。「肖像画などの具象芸術が私たちに非常に大きな影響を及ぼしうる理由は、脳の視覚システムが、場面、物体、そしてとりわけ顔や表情を処理するための強力なボトムアップ装置を備えているからだ。~略~ならば、私たちはいかに抽象芸術に反応するのだろうか?脳のいかなる装置が、除去されたとは言わないまでも大幅にイメージが還元された絵を処理し知覚することを可能にしているのか?」という問いかけが本章の導入箇所にありました。ここで感覚刺激と言う語彙が登場します。感覚刺激とは意識によって気づかれる前の、感覚のもとになる入力刺激を指し、哲学では感覚与件と言われています。「感覚刺激と知覚の区別は、視覚の中心問題をなす。感覚刺激は光学的なものであり、目が関与する。それに対し、知覚は統合的なものであり、脳全体が関与する。」その後の論考ではサルを使った脳科学の検証があり、次の文章が出てきました。「私たちが芸術作品を見るとき、いくつかの源泉から得られた情報が、入って来る光のパターンと相互作用して、その作品の知覚経験が得られるのである。情報の多くはボトムアップ処理によって脳に伝達されるが、過去に見た視覚世界の記憶から得られた重要な情報が、つけ加えられる。このような、過去に他の芸術作品を鑑賞したときの記憶は、網膜に映ったイメージの源泉、カテゴリー、意味、効用、価値を推定することを可能にする。~略~抽象芸術は、それ以前の印象派の絵と同様、『単純でときに乱雑に描かれた特徴でも、鑑賞者自身が内容を豊かに補完する知覚経験を引き起こすに十分である』という前提に依拠している。脳研究によって得られた証拠は、高度に特異的なトップダウンシグナルが視覚皮質に送られることでこの知覚的な補完が生じることを示している。」最後に前章に登場したデ・クーニングとポロックの2人の芸術家の作品を再度検証しています。「デ・クーニングとポロックの作品の比較によって明らかになることは、抽象芸術が明らかに還元主義的でありながら、多くの具象芸術よりはるかに強く鑑賞者の想像力に訴えかけるという点である。また、これら二つの完全に抽象的な作品は、キュビストの作品に比べ、脳の視覚装置によるボトムアップ処理にそれほど負担をかけない。キュビストの作品は、具象的な構成要素を維持しているケースが多いが、いくつかの互いに無関係の異なる視点を適用して見るよう鑑賞者に求める。だが私たちの脳は、そのような見方を意味あるあり方で処理できるよう進化してきたわけではない。」