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「二つの文化に戻る」のまとめ&読後感
「なぜ脳はアートがわかるのか」(エリック・R・カンデル著 高橋洋訳 青土社)の「第14章 二つの文化に戻る」をまとめますが、これが本書の最終章になるため、全体としての読後感もつけ加えます。本書を読み始めた最初にスノーの言葉の引用がありました。(9月28日付NOTE)本章では、もう一度本書を著すに至ったねらいを確かめるために最初に立ち戻っています。「進化生物学者のE・O・ウィルソンは、C・P・スノーの言う二つの文化、すなわち科学と人文学のあいだに横たわる溝を、かつての物理学と化学のあいだや、それら二分野と生物学のあいだで起こったものに類似する一連の対話を通して埋めることを思い描いている。」それから発展して次のように語っています。「新たな心の科学と美学の統合が近い将来実現するとは考えにくいが、抽象芸術を含むアートの諸側面に関心を抱く人々と、知覚や情動の科学に関心を抱く人々のあいだで対話が行なわれるようになってきた。これら対話の蓄積はやがて効果を生むだろう。」またスノーが言及したことについて次のようにまとめています。「科学と芸術のおのおのが独自の視点を提供して、人間の本質に関する根本的な問いの解明を促すことができる。そして、それを達成するための手段として、科学もアートも還元主義を適用することができる。結論を言うと、新たな心の科学は、知性や文化の歴史において新たな次元を開くことができる、脳科学と芸術のあいだの対話を今や実現しようとしているのだ。」訳者あとがきに高橋洋氏による簡潔な言葉がありました。「ここで言う二つの文化とは、『世界の物理的な本質に関心を抱く科学の文化』と、『人間の経験の本質に関心を抱く、文学や芸術をはじめとする人文文化』を指す。『はじめに』と『第14章 二つの文化に戻る』という冒頭と棹尾を飾る二つの章では、C・P・スノーの見解を取り上げつつ、これら二つの文化の橋渡しをすることの重要性が強調されている。」本書全体にわたる趣意はこれが全てと言えます。二つの文化の対話はまだ始まったばかりということですが、アートの世界しか知らない私が、専門外の脳科学を通じて知り得た情報は、大変に面白くまた意義深いものがありました。本書は章によって科学寄りだったり、アート寄りだったりして、部分的には分かりやすい解説もありましたが、科学寄りの部分には慣れない語彙が出てきて、理解に苦しむ場面もありました。逆に科学専門の人にはアートが分かり難い部分もあったろうと察します。つまりこれが対話の第一歩かもしれないと思いつつ頁を閉じました。