Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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ラ・トゥールの「女占い師」について
先日出かけた国立新美術館で開催している「メトロポリタン美術館展」。展示されていたのは美術史に名を残す画家ばかりで、西洋美術を俯瞰するには絶好の機会でした。巨匠を挙げていけばキリがないので、今回は思わず目を留めた作品について書いていこうと思います。ジョルジュ・ド・ラ・トゥールはフランスの画家で他の巨匠に比べると、知名度はやや低いと見積もっていましたが、表現力は充実していて、とくに来日していた「女占い師」は複数の登場人物の心理描写が興趣をそそりました。日本での展覧会主催者もこの絵はインパクトがあると思ったのか、大きなポスターに使われていました。図録より解説部分を拾います。「疑念を抱きつつも弱さに付け込まれた若者が、老女から運命を告げられる間に金品をかすみ取られている。これはカラヴァッジョが好んだ主題でもあった。ハンサムな若者は、様々な刺繍で装飾されたピンク色を主調とする衣服の上に、黄褐色の革製のジャーキンを纏っている。ベルトの先には金の飾り玉が付き、シャツの首元には金の紐が結ばれている。財布の紐は金とエナメル製で、先端にメダイヨンのついた金鎖には、この場面には存在しない美徳である『愛』と『信頼』を意味するラテン語が銘記されている。格好の標的である若者は、彼に運命を告げながらコインを取り上げる老婆、彼を横目で見ながらメダイヨンを吊り下げた金鎖を切る青白い顔の若い女性、そして彼のポケットから金品をかすめ取る女性と、3人の犠牲になっている。」若者を取り囲んでいる女性たちはロマと呼ばれるジプシー(移動型民族)かもしれず、この絵にはさまざまな比喩があるようにも思えます。私も若い頃、ヨーロッパで観光客を取り囲んで金品を盗難する集団をよく見かけました。私自身は被害に遭わずにすみましたが、当時の私はかなり貧相な服装をしていたようで、ルーマニアではロマに大丈夫かと声をかけられたこともありました。私の生活ぶりは、傍から見ると盗賊以下だったのかもしれません。そんな思い出に絵を見ながら浸れたのも良かったと思いましたが、あの時、声をかけてくれたロマと共に旅をしていたならば、私の人生は大きく変わっていたでしょう。紀行作家みやこうせいさんと、ギリシャで遊牧民と共に羊の群れを追う生活をしたこともありましたが、今となっては思い出のひとつに過ぎません。1点の絵画から派生する自身の記憶を辿りながら、私は夢うつつの会場を歩いていました。