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映画「アウシュヴィッツのチャンピオン」雑感
先日、横浜のミニシアターにポーランド映画「アウシュヴィッツのチャンピオン」を観に行きました。第二次世界大戦中のアウシュヴィッツ強制収容所でホロコーストを生き抜いたボクサーの知られざる実話という宣伝文が気になり、その内容が知りたくて映画館に足を運びました。戦前のワルシャワでテディの愛称で親しまれたボクサー、タデウシュ・ピエトシコフスキ。ふとしたことからボクシングチャンピオンであった事情が収容所で知れ、彼はナチス司令官たちの娯楽として急場のリングに立ち、試合に勝ち続けました。報酬として食料や薬を手に入れ、囚人仲間たちに分け与えました。アウシュヴィッツ強制収容所は、当初からユダヤ人をガス室で抹殺する施設ではなかったようでした。一方ナチス側も過剰な悪魔的存在ではなく、むしろ僻地にある収容所の気晴らしとして囚人たちにボクシングをさせていたのでした。ちょうどローマ時代のグラディエーターを彷彿とさせますが、ひとつ間違えば死と隣り合わせの試合になって、とてもスポーツと呼べるものではなかったようです。それでもテディの活躍は捕虜となったポーランド人たちに生きる希望を与えました。この映画はどのように終わるのだろうと私は考えていましたが、彼はアウシュヴィッツからノイエンガメ収容所に移され、さらにベルゲン・ベルゼン収容所で解放されることになったようで、まさに彼は強運の持ち主だったことが分かります。図録に彼の娘が語った言葉がありました。「当時父は体重40キロにまでやせ細っていた。その体で体重70キロを超えるドイツのミドル級王者、ワルター・デユニングなどと対戦させられていた。彼らは試合にお金をかけて楽しんだ。父は、まるで自分がピエロと分かっていても生き延びるためには闘うしかなかったのです。あんなにボクシングを愛していた父が、どんな思いだったのかと、今でも悔しく思います。」