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映画「THE FIRST SLAMDUNK」雑感
1990年代に旋風を巻き起こしたバスケットボールの漫画「スラムダンク」は、私も虜になっていました。自宅の屋根裏収納には「スラムダンク」全巻があります。その頃の私は教職にあって、勤めている中学校にはバスケ部があり、スポーツとしては身近な存在であったわけですが、寧ろその物語の画力に美術科教員として感心していました。登場する選手たちのエピソードや人間的成長にも惹きつけられていて、いわば往年のファンとして自他共に認めていました。私のような読者は当時大勢いたのではないかと察しています。この漫画の影響でバスケを始めた生徒もいました。それまでのスポーツ根性漫画と「スラムダンク」が異なるところは、チームに万能のスターがいないことで、全員の協調性や不屈の精神を描いて試合に臨んでいたことです。漫画と並行してアニメも放映されていて、毎週それを楽しみにしていました。アニメの画質としては粗さがありましたが、演じていた声優がキャラそのものとなって、画面の中で活発に動いていました。そのイメージが根強く残っていることで、私は新作の映画「THE FIRST SLAMDUNK」を観に行こうかどうしようか迷っていました。今日、映画「THE FIRST SLAMDUNK」を観てきました。結果として私の心配は一気に吹き飛びました。あたかも会場で実際の試合が行われているような臨場感、高揚感があったからです。これはCGによる滑らかな画像によるもので、緩急織り交ぜた選手の動きに時間が経つのを暫し忘れました。図録に原作者で監督も担当した井上雄彦氏のコメントが掲載されていました。「僕の中に『こんな感じにしたい』というイメージはあっても、その経験や知識がありません。『こんな感じ』としか言いようのないふわっとしたイメージを提示して、それを経験豊かなスタッフたちが『こうなんじゃないか』と解釈したり、『こうしてみたんですが』と打ち返してきてくれて。最初から明確に『ここがゴールですよ』という一点へ向かって全員で突き進んだという感じではなく、そうしたやりとりを積み重ねながら最終的に『ああ、たどりついた』みたいな感覚です。」模索を繰り返して作り込まれた画像は、観ているこちらにも伝わってきました。「連載時、僕は20代だったから高校生側の視点のほうが得意というか、それしか知らなかったんです。そこから年をとって視野が広がり、描きたいものも広がってきた。~略~原作で描いた価値観はすごくシンプルなものだけど、今の自分が関わる以上は、原作以降に獲得した『価値観はひとつじゃないし、いくつもその人なりの正解があっていい』という視点は入れずにいられませんでした。」作り手の成長が創作物に豊饒を齎すことで、単なるスポーツドラマではなく、選手一人ひとりにも生きてきた時間があることを本作では饒舌に語っています。