Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

「アンドレ・ブルトン伝」読後感
「アンドレ・ブルトン伝」(アンリ・べアール著 塚原史・谷正親訳 思潮社)を読み終えました。本書はシュルレアリスムの提唱者である詩人アンドレ・ブルトンの詳細な伝記である一方、シュルレアリスムとは何かという根源的な問いかけが幾度となく現れて、その思想をあらゆる場面で深めていく記録が綴られています。文学に疎い私としては造形美術の分野で存在感を示した人たちが複数登場したことが、本書を身近に感じた要因にもなっています。とりわけマルセル・デュシャンが出てくる箇所にチェックを入れていました。本書の最後に掲載されていた「訳者あとがき」に本書全体をまとめた文章があったので、引用させていただきます。「べアールはブルトンの生涯をカリスマ性に照らされた神話として提示するのではなくて、ためらいや失意がときめきや希望と交錯するひとりの詩人・思想家の精神史として、同時代の社会の動きと重ねあわせて描きだすことができたのである。~略~マラルメら象徴派の詩人に傾倒していた多感な少年が、精神医学を学びはじめたとたんにあの大きな戦争に巻きこまれ世界と人間が文字どおり破壊される過酷な光景を目撃して、西欧近代が築きあげてきた価値の体系に根源的な不信を抱くようになり、同じ感性を共有する友人たちとともにこの抑圧的なシステムの乗り越えをめざして、横断的な知を模索する未知の冒険に乗り出す場面は、20世紀のもっとも美しい記憶のひとつとなっているのである。さらに、こうしてシュルレアリスムを始動させたブルトンが、われわれの時代に認識論的切断をもたらしたフロイトからトロツキーにいたる思惟と人格との出会いを経験しつつ、仲間たちとともに困難な歴史を通過して、半世紀近くの間、このラディカルな異議申し立ての運動を主導してゆくありさまを、本書は生き生きと描きだしている。」(塚原史著)本書を通じて、この流れに従うならば、次に私が読むべきなのはマルセル・デュシャンの関連書籍なのかなぁと思っています。