Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

「花嫁のヴェール」➀について
「マルセル・デュシャン全著作」(ミシェル・サヌイエ編 北山研二訳 未知谷)の「第一章 花嫁のヴェール」は多くの単元に分かれていて、そのうち最初の2つの単元で注目した文章を引用いたします。まずその「序文」となる単元ですが、マルセル・デュシャンが熱心に造形作品やその構想に取り組んだ時期のことが書かれていました。「実際われわれの作者にとって、1912年から1920年までの期間は芸術活動・構想推敲の濃密な時期であり、とりわけ〈レディー・メイド〉の創案と〈大ガラス〉の部分的制作がその特徴である。〈大ガラス〉の制作作業は1915年秋に行われたが、それはアメリカの大都市〔ニューヨーク〕に(6月15日ころ)到着して数週間後のことである。しかし、造形美術の創造力のこうした展開は、異常な知的興奮によって倍加する。つまり、10年ほどのあいだ毎日彼は紙片にこれらノートを綴るのである。ノートは、ほんとうの対位法のレチタチーヴォとしてのこの時期の作品の基盤に横たわり、作品を解説しあるいは反対に隠蔽する。」(※レチタチーヴォ=「叙唱」と訳される。)デュシャンの代表作品はこの時期に集中して考案され、また制作されたようです。次に「1914年のボックス」という単元がありました。デュシャンにはメモをボックスに入れて保管する習慣があり、有名なものでは「グリーン・ボックス」がありますが、これはそれ以前に存在するボックスらしく、かなり貴重なものだろうと思われます。そこで書かれていたこんな文章に目が留まりました。「デュシャンは即興の人ではない。その最も自然発生的に見える創案でもゆっくりした成熟の産物である。そのようにしてデュシャンは、1914年早々にパリで、『文学的』作品の受容器としてボックスを利用するという着想を抱いたのである。彼は個人的な使用のために、公表の意図もなく、15のテクストをまとめることまでしていた。」今回はここまでにします。