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映画「ジャコメッティ 最後の肖像」雑感
待ち望んでいた映画「ジャコメッティ 最後の肖像」が横浜のミニシアターにやってきました。先日、早速観に行ったら、自分もジャコメッティの精神状態になりきってしまいました。私は煙草を吸わず、周辺に娼婦もいないので、彼とあまりにも環境が違いすぎるし、表現方法も対極的なので、真似をしようにも出来ませんが、魅力的な人物像に少しでも近づきたいと思ったのでした。本作は、1964年にパリのアトリエでモデルを務めたアメリカ人作家のJ・ロードによる18日間のジャコメッティとのセッションを描いています。ドラマ仕立ての映画であっても、ドキュメンタリーのような気配があり、私には表現に肉薄する巨匠の凄みさえ感じました。映画のほとんどが狭い古びたコンクリート色したアトリエが舞台で、密室劇にも関わらず、そこで展開する心理描写は、創作活動する者にとっては、共感できることが多いと思いました。哲学者でフランスに留学していた矢内原伊作が、やはりモデルを務めていて、それに関する多数の著作があったため、その雰囲気は予め文章で読み取ることは出来ました。映像になるとこんな感じなのかと改めて認識した次第です。ジャコメッティの人物を象徴する言葉を探していたら、パンフレットにこんな一文がありました。「ジャコメッティはストイックであると同時に気まぐれで、ユーモアがあると同時に癇癪もちで、自分の作り出すものに常に懐疑的であった。」(横山由季子著)モデルを務めた人たちが言うのだから人物の性格に間違いはないでしょう。追求に追求を重ね、完成を拒む作品。見えた通りに作ったら、針金のように細くなった作品。巨匠らしかぬ風貌。その姿を捉えた本作は、自分には極めて刺激的でユーモラスな映画であったと思っています。