Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

週末 アングラの劇作家を惜しむ
週末にはいつも創作活動について書いていますが、訃報が飛び込んできたので、今日は劇作家にして俳優の唐十郎氏の逝去について書いていきます。私は大学生の頃、アングラ劇に刺激を受けていました。アングラとはアンダーグラウンド文化の略称で、ネットによると「反権威主義などを通じて波及し、1960年代後半に起こった、商業性を否定した文化・芸術運動のことを指す」とありました。最初の出会いは、詩人寺山修司の演劇論集で、今も自宅の書棚に「地下演劇」という天井桟敷編集委員会が発行した演劇理論誌があります。演劇実験室「天井桟敷」は渋谷にありました。何回か天井桟敷の公演を観て、日常空間と非日常空間との差異に興味を持ちました。当時「天井桟敷」以上に足を運んだのは、唐十郎主催による劇団「状況劇場」でした。新宿花園神社や江東区にある夢の島で公演をしていて、紅テントによる移動式の劇場に幾度となく行っていました。テントの中では筵が敷かれ、観客はぎゅうぎゅう詰めになって、役者の汗や唾が飛んできそうな迫力ある演劇を観ていました。台詞を機関銃のように矢継ぎ早に喋べる感情表現の方法は、今まで経験したことのない刺激と斬新さがありました。社会そのものを風刺したり、世相を批判するその内容は、時に警察に取り囲まれたりしたこともありました。私の世代は学生運動が下火になり、ほとんどデモが姿を消してしまった白けた時代だったので、こうした熱情の籠ったアングラ演劇に活路を見出していたのかもしれません。紅テントの芝居が終盤に差し掛かるところで、囲ったテントが開いて、周囲の景色を見せる演出をしたことがありました。突如日常空間が目の前に現れて、私は何とも言えない不思議な昂りを覚え、外の涼風と共にふと我に返った感覚を持ちました。劇作家唐十郎は、私にとって常に若々しい世界を見せてくれる才人だったと思っています。謹んでご冥福をお祈りいたします。