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横須賀の「加藤登紀子コンサート」雑感
先日、横須賀芸術劇場で開催された「加藤登紀子コンサート 花はどこへ行った」へ行ってきました。往年の歌姫は現在74歳。会場を埋め尽くす観客も高齢者ばかりで、かく言う私も62歳です。今朝、大阪で大きな地震があったことを思うと、震災等の有事に見舞われた時に、私を含むこの大勢の人たちは速やかに避難できるのか、些か心配されるコンサートでした。彼女の歌うシャンソンやロシア民謡は、美声である必要はなく、寧ろ人生を積み重ねた深みが、声に表れていれば充分聴き応えのあるものになると、コンサートの最中に思いました。歌の魂はニーチェの言うディオニソス的情念であり、私の心に突き刺さる主張を持って迫ってくるのでした。数多い演目の中で私が注目したのは「今日は帰れない」というポーランドの歌でした。私が持っているアルバム「愛はすべてを赦す」に収録されている一曲で、ナチスと戦ったパルチザンのことを悲哀を籠めて歌ったものでした。パルチザンとは占領軍への抵抗運動を指す言葉です。その他にも有名な「リリー・マルレーン」も歌っていました。ドイツの大女優マレーネ・ディートリヒによって世界中に知れ渡った歌で、戦場で敵味方なく兵士に一時の癒しを齎せたエピソードは余りにも有名です。フランスのシャンソン歌手エディット・ピアフの歌も日本語歌詞で披露されていました。この時に初めて聴いて心に沁みたのは「遠い祖国」という中国ハルピンのことを歌ったものでした。加藤登紀子は大陸生まれで引揚者であったこと、帰国後に一家はロシア料理店を営んでいたこと等、ご自身の波乱に富んだ半生をも話されていて、この一曲に籠められた思いがよく伝わってきました。歌手や演奏家は、作り手であるなしに関わらず、自分の人生に重ね合わせて、その深みや主張を表現する者であらねばならないと、コンサートの幕が下りて私は強く感じました。私にとっては非日常の機会ではありましたが、心が充足する素晴らしいひと時が持てました。今も現役で活躍される往年の歌姫に感謝いたします。