Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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図録による「小井土滿展ー鉄水墨」について
東京銀座のギャラリーせいほうでの私の個展の最中に、彫刻家小井土滿氏がひょっこり顔を出し、暫し話をする機会が持てました。小井土氏は長い間武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科の教授をされていて、数年前に同大学を退官しました。ギャラリーせいほうでも個展をされていたので、一度お会いしたいと思っていたので、丁度良い機会だったと思いました。鉄を溶接し、また鍛金をして、水墨画のようなタッチを表した小井土氏の空間造形は、空間を切る爽快さと軽さを併せもっています。私は残念なことに退官記念展を見ていなかったので、先日「脇谷徹ー素描ということ」展を見に行った時に、美術館受付で「小井土滿展ー鉄水墨」の図録を購入しました。改めて小井土ワールドに触れると、鉄水墨が生き物のように見えて、不思議な生命力を感じました。図録に作家の寄せた文章が掲載されていました。「湧いたイメージを鉄鍛造で制作すると、具体化にリアリティーが出て来る。心の具象化とも言える。それは自分の中に存在を超えたものが顕在化し、作品を見る人もそれぞれを追体験しながらこんな世界もあると実感することが出来る自分だけの楽しみや面白さがあると思う。私自身も経験したことのなかった世界に連れて行って欲しいものである。鉄鍛造で作られた作品と自分との距離の間に出来る、実空間と違うが感じ取ったものは何なのかゆっくりと味わいたい。水墨画の余白に面白さを感じる幽玄な世界の表現に繋がりうる空間である。受けるイメージの深い印象によりさらなる展開が広がり、未体験の感性を伴っている。目を瞑ってもそのやり取りを感じるのは喜びであり、作品と一体感が出て来て言葉にならない見る人の楽しみでもある。」水墨という発想は、小井土氏のご尊父が日本画家だったことがあり、家庭環境として水墨画が身近な存在であったことが挙げられます。またネパールへ仏像鋳造の研究に赴いたことも鉄水墨の発想の源になっただろうことは想像に難くありません。米彫刻家アレクサンダー・カルダーの床置きの彫刻である「スタビル」を彷彿とさせる鉄水墨ですが、そこは西欧の感覚とは異なり、小井土ワールドには東洋の神秘とも言える情緒と風のような爽快さがあって、日本人としての現代彫刻を示す独自な表現と私は捉えています。