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上野の「国宝 鳥獣戯画のすべて」展
緊急事態宣言が東京に出された時は、上野の東京国立博物館で開催中だった「国宝 鳥獣戯画のすべて」展が中止になり、私は同展を諦めかけていました。今月になって同展が延長されることになり、しかもコンビニに走ってやっとの思いで予約券を手に入れたのでした。展覧会をこんな思いで心待ちにすることは今までなかったことでした。同展はやはり多くの鑑賞者が訪れていましたが、混雑して見られないことはなく、遊歩道に乗って鑑賞する工夫も一興でした。鳥獣戯画の一部分は前にも見たことがあり、修復が終わった甲巻を味わった記憶があります。今回は有名な甲巻に加えて趣の異なる乙巻、丙巻、丁巻が展示され、全長44メートルに達する絵巻物全てが見られる貴重な機会と言えました。新たな発見は断簡と模本で、抜けた画面を掛軸に仕立て直したものが断簡、断簡となる前の順序や失われた画面を確認できるものが模本で、私にとって初めて見るものばかりでした。同展には立派な図録が用意されていて、図録による解説も大変参考になりました。まず甲巻でこんな文章がありました。「全体的な傾向としては、前半は動物を観念的に描いているような印象を受けるのに対し、後半は実際の観察にもとづく描写という感じを受けます。」次に乙巻は前半を日本動物編、後半を異国動物・霊獣編と分けていて「『異国動物・霊獣編』は日本にいない動物なので、絵師は何らかの手本や粉本を参考にして描いたはずです。知らない動物の形態を間違って描かないよう、先行図様に忠実に、なぞるかのように引いた結果が、こうした線の違いに表われていると考えられます。」とありました。丙巻では表裏にあった人物戯画と動物戯画の話に私は注目しました。「近年行われた解体修理の際、もともと紙の表裏に描かれていたものを、紙を薄く剝いでつなぎ合わせたのが現在の形だということが明らかになりました。」丁巻は人物中心で「甲巻、丙巻動物戯画で動物たちの行動は人間が行う儀式や遊戯の『見立て』でしたが、丁巻ではそれを再び人間の姿に戻すという二重のパロディを描くことで、きわめて諧謔的な画面を作っているわけです。」とありました。(解説は全て土屋貴裕著)私は自身の好みで言えば人物より動物の戯画化が面白くて、とりわけ軽妙洒脱な蛙の表現に惹かれてしまいます。日本人は平安時代より可愛いキャラクターが好きで、今も隆盛を極めるご当地キャラクターの原点がここにあったのではないかと思いました。京都の高山寺に伝わる鳥獣戯画ですが、明恵上人坐像や明恵上人が可愛がっていた子犬の木像もあり、しかも明恵上人が著した夢の記録もあって、高山寺ゆかりのものに不思議な現代性を感じてしまったのは私だけでしょうか。