Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「アートの知覚に対する科学的アプローチ」のまとめ
「なぜ脳はアートがわかるのか」(エリック・R・カンデル著 高橋洋訳 青土社)の「第2章 アートの知覚に対する科学的アプローチ」をまとめます。冒頭に「創造的で主観的な経験たるアートを対象に、いかなる側面であれ客観的に研究することができるのか?」という問いかけがありました。鑑賞者の関与として「いかなるものであれ強力なイメージは、アーティストの経験や葛藤から生じるがゆえにあいまいなものにならざるをえない。鑑賞者はこのあいまいさに対して、自分自身の経験と葛藤を介して反応し、アーティストによるイメージ形成の経験を控えめに追体験するのだ。アーティストにとっては、創造のプロセスは解釈的なものでもあり、また鑑賞者にとっては、解釈のプロセスは創造的なものでもある。鑑賞者の貢献度はイメージのあいまいさの度合いに左右されるので、具象芸術に比べて抽象芸術は、識別可能なフォルムを参照できないこともあり、鑑賞者の想像力により大きな負担をかける。まさにこの負担が、抽象芸術を人によっては理解困難なものにし、自己を拡大し超越する経験をそこに見出せる鑑賞者には価値のあるものにしているのだろう。」とありました。次に逆光学問題として捉えられている網膜に投影されたイメージについて述べています。そこで「私たちの脳は、両目に投影された外界の不完全な情報を受け取り、完全なものにする」という原理を理解するようです。ここで2つの概念が登場します。それは「ボトムアップ情報」と「トップダウン情報」です。まず、「『ボトムアップ情報』は、脳の神経回路に生得的に備わっている計算プロセスによって提供される。この計算プロセスは、生物学的進化のおかげで、おもに誕生時に脳に組み込まれる普遍的な規則に支配されている。それによって私たちは、輪郭、線の交差や接合など、物理世界のイメージの主たる構成要素を引き出すことができるのだ。」とありました。さらに「『トップダウン情報』は、認知的影響や、注意、想像、期待、学習された視覚的関連づけなどといった高次の心的機能に関連する。感覚器官から受け取った混乱した情報のすべてを解明することは、ボトムアップ処理には土台不可能なので、脳は、残存するあいまいさを縮減するためにトップダウン処理を動員しなければならない。つまり私たちは、自分の経験に基づいて眼前のイメージの意味を推測しなければならないのだ。」とありました。つまり「知覚は、脳が外界から受け取った情報と、過去の経験や仮説の検証による学習に基づいて得られた知識を統合する。」ことになるわけです。芸術をこのような視点から述べられている本書に、私は新鮮な驚きを隠せません。さらに次章では詳しい論考があるようで、楽しみになってきました。