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「鑑賞者のシェアの生物学」のまとめ
「なぜ脳はアートがわかるのか」(エリック・R・カンデル著 高橋洋訳 青土社)の「第3章 鑑賞者のシェアの生物学」をまとめます。「実のところ脳は、網膜に投影された二次元イメージから、世界の三次元構造に関する情報を積極的に引き出す。脳の機能の魔術的とも言えるすばらしさは、不完全な情報に基づいて物体を知覚し、しかも照明などの条件が異なっていても同じ物体を同じ物体として認識できる、その能力にある。」というのが本章の導入で、次に論考は視覚システムに移行します。「視覚とは、さまざまなイメージから何が視覚世界のどこに存在するのかを見出すプロセスをいう。このことは、脳が、『何が』に対応するプロセスと『外界のどこに』に対応するプロセスから成る、並行する二つの処理の流れを備えていることを意味する。大脳皮質内に存在するこれら二つの並行処理ストリームは、それぞれ『what経路』『where経路』と呼ばれている。~略~what経路は、一次視覚皮質から脳の底部に近いいくつかの領域に向けて走っている。~略~この情報処理ストリームは、形、色、アイデンティティ、動き、機能などの、物体や顔の性質に関与している。この経路は、肖像画の鑑賞という文脈でとりわけ私たちの興味を引く。~略~where経路は、一次視覚皮質から頭頂近くにある脳領域に向けて走っている。背側経路とも呼ばれているこの経路は、外界における物体の位置を定めるための、運動、奥行き、空間情報の処理に関与している。」この2つの経路は3つのタイプの視覚処理を実行していて、低次の処理、中間レベルの処理、高次の処理に分かれているようです。そのうち高次の視覚処理に関してこんな文章があります。「この情報がwhat経路の最高次の段階に到達すると、トップダウン処理が生じる。つまり脳は、注意、学習、あるいはこれまで見てきたこと、理解してきたことすべての記憶などの認知プロセスを動員して、情報を解釈しようと試みるのだ。」次に脳が作用する顔処理についての文章です。「社会的動物としての私たちは、自分の考えや計画ばかりか、情報も交換し合う必要がある。そして顔を用いてそれを行なっている。私たちはたいてい、限られた表情を通じて自分の情動を伝える。かくして人は、魅惑的なほほ笑みを浮かべて他者を引きつけ、怖い顔をして他者を遠ざけることができる。~略~何が顔を特別なものにしているのか?高性能のコンピューターでさえ、顔認識はきわめて困難であるにもかかわらず、たった二、三歳の乳幼児が、2000の異なる顔を識別するまでに学習することができる。もう一つ例をあげると、私たちは単純な線画からレンブラントの自画像をそれとして容易に認識することができる。」最後にこんな文章を拾っておきます。「脳がいかに外界の表象を構築しているのかをさらに深く探究する脳画像研究によって、物体の材質に関する視覚情報の脳によるコード化は、その物体を見ているあいだ徐々に変化することが明らかにされている。絵や物体を最初に見た瞬間には、脳は視覚情報だけを処理する。それからすぐ、他の感覚によって処理された情報が加えられ、脳の高次領域でその物体に対応するマルチ感覚の表象が形成される。~略~複数の感覚器官から入力された情報を結びつける作用は、脳によるアートの経験において必須の役割を果たしているのだ。」今回はここまでにします。