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「学習と記憶の生物学」のまとめ
「なぜ脳はアートがわかるのか」(エリック・R・カンデル著 高橋洋訳 青土社)の「第4章 学習と記憶の生物学」をまとめます。「本章はアートにおけるトップダウン処理に寄与している基本的な神経メカニズムについて考察し、還元主義的アプローチの枠組みを用いることでいかにこのメカニズムを説明できるかを見ていく。」という冒頭の文章で、まず遺伝の研究に注がれています。遺伝子の化学的な構成要素がDNAであることを証明し、論考は学習と記憶に対する還元主義的アプローチに入っていきます。「学習とは、世界に関する新たな知識を獲得するメカニズムであり、記憶とはかくして獲得した知識を長く維持する能力である。~略~学習は個人的なものであるにもかかわらず、幅広い文化的意義を持つ。私たちは、学習によって得られた知識を通して、世界や文明について知る。」次に論考は心理学と生物学の融合に至り、「学習や記憶の基盤をなすメカニズムをめぐる問いに答えるためには、脳自体を研究する必要がある。~略~かつては心理学者や精神分析医の専門分野に属すると考えられていた記憶の蓄積の問題は、現代生物学の方法の対象になったのだ。」という文章があり、そこで記憶の蓄積として、「脳は、事実、できごと、人々、場所、物体に関する顕在記憶(宣言的記憶)と、知覚や運動のスキルに関する潜在記憶(非宣言的記憶)という二つの主要なタイプの記憶を形成する能力を持つことが判明した。」とありました。その分析を行うにあたり、実験生物としてアメフラシを用いて、学習形態の一つである心理学で用いるところの古典的条件付けを行ったりしています。脳科学として面白い箇所ではあると思いますが、あえて割愛させていただき、まとめとなる文章を引用いたします。「成長環境やそこから受ける刺激、学習、さらには運動や知覚の行使のあり方は人によってある程度異なっているので、脳の構造も、人によって独自の様態で変更される。人間が互いにわずかに異なる脳を持っているのは、各人各様の経験のゆえである。遺伝子を共有する一卵性双生児でさえ、おのおのの人生経験は異なり、よって互いに異なる脳を持つ結果となる。~略~視覚の連合学習は、記憶の意識的な想起に関与している海馬と相互作用する下側頭皮質で強化される。また芸術作品に描かれた色や顔に対する強い情動反応の基盤も判明している。すなわちそれは、色や顔に関する情報の処理に特化した領域を含む下側頭皮質が、海馬や情動を統制する偏桃体と情報を交換することで生じるのだ。~略~私たちは、脳がいかに芸術の知覚や享受を仲介するのかについて理解し始めたばかりではあるが、抽象芸術に対する私たちの反応が、具象芸術に対する反応とは著しく異なることを知っている。さらには抽象芸術が大々的に成功し得る理由も知っている。イメージをフォルム、線、色、光に還元する抽象芸術は、トップダウン処理、そしてそれゆえ情動、想像力、創造性により強く依存している。」今回はここまでにします。