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「なぜアートの還元は成功したのか?」のまとめ
「なぜ脳はアートがわかるのか」(エリック・R・カンデル著 高橋洋訳 青土社)の「第13章 なぜアートの還元は成功したのか?」をまとめます。本書の論考は愈々佳境に入り、終盤を迎えます。「アートに対する私たちの反応の生物学的基盤の探究はまだ緒に就いたばかりだが、抽象芸術が鑑賞者に豊かで活発かつ創造的な反応を引き起こす理由については、ある程度の手がかりが得られている。ただしこれらの手がかりは出発点にすぎない。また私たちは、還元主義が、なぜアートのもっとも本質的で強力な側面を引き出せるのか、さらにはなぜスピリチュアルな感覚をときに喚起するのかも知りたいところだ。」そこから脳科学を通じてルネサンス絵画の三次元への再構築を引用し、それに対する抽象芸術の捉えを対論として提起しています。「風景画、肖像画、静物画などの具象画は、特定のカテゴリーのイメージに反応する脳領域を活性化する。現在では、脳画像法を用いた脳機能の研究によって、抽象芸術はそのような特化した脳領域を活性化するのではなく、あらゆる形態の芸術に反応する脳領域を活性化することが示されている。私たちは、除外によって抽象芸術を見るのだとも言えよう。」それはリアリティからの分離とも解釈できますが、現代生活には抽象芸術に近い物質が多く見受けられます。「実のところ私たちは、壁や黒板など、ミニマリズムの絵画に非常によく似た単純な平面を日頃目にしている。現代のミニマリストの芸術家は、その種の単純な平面を創造的に組み立て、触感、色、光を巧みに用いることで、鑑賞者の想像的な反応を引き出せると認識している。」次にデフォルトネットワークという語彙が登場してきます。まず「私たちの想像力に訴えかける抽象画は脳のトップダウン処理メカニズムを始動するが、具象画は脳のデフォルトネットワークに働きかける。」という一文がありました。「デフォルトネットワークは、私たちが休息しているときに活性化するが、世界と関わっているあいだは抑制される。たとえば、白昼夢を見ているとき、記憶を想起しているとき、音楽に聴き入っているときに作動し、現実的な課題から独立した内省に関与するので、クリス(エルンスト・クリス)らの自我心理学者が『心の前意識的プロセス』と呼ぶものを構成する。~略~デフォルトネットワークは、前意識的な思考に強く依存すると考えられる。刺激とは独立した思考や心的活動に関連づけられるようになった。」本章の最後に「美は見る人の目だけでなく、脳の前意識的な創造プロセスのなかにも存在する。したがって抽象芸術が一定の鑑賞者に与える深いスピリチュアルな感覚が、一部はデフォルトネットワークの活性化に由来するのか否かを検証することには大きな意義があろう。」と結ばれていました。