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映画「ウエスト・サイド・ストーリー」雑感
20世紀のアメリカが生んだ偉大な名作ミュージカルを、リメイクするのは大変な冒険だったろうことは、今回リメイク版を観て感じました。正直なところよくぞここまでやったなぁと思いましたが、図録というよりメイキングブックを読んで、その考えを改めて確認しました。脚本と総指揮はトニー・クシュナー、監督はスティーブン・スピルバーグ、我が国での初演は今年2022年です。まず本作で驚いたのはリアルな情景描写でした。「まず、野外ロケ中心にするのか、屋内スタジオの撮影中心なのかを考えました。そしてまずスティーブン(スピルバーグ)から指示されたのが、物語を外に連れ出して現実感を出してほしいということだったんです。それってかなりハードルが高かったですね。というのも、2016年に初めての打ち合わせをした段階から話題に出ていたんですが、ニューヨークのウエスト・サイドは激変してしまっていたんです。」それでも撮影地を探し、あの街路の取り壊し現場の撮影になったようです。カメラに関してもこんな話が載っていました。「今回の映画の何がオリジナル映画版と違うかというと、第一にカメラの動きです。ロバート・ワイズ監督が前作を撮った時代のカメラというものは、固定せざるを得なかったんですよ。現に、振付はあんなに美しいのに、カメラに煽られていないというか、カメラの動きに促されている感じがあまりしませんでした。~略~今の機材は軽い分、カメラマンも演者に合わせて簡単に動けるようになりました。~略~前作では背後に見える街並みがやけにきれいだったのが、僕らには気になりました。路上に泥や埃がないのが非現実的だと感じたんです。確かに、ミュージカルでザラついた現実感を出すのはとても難しいことではあります。なにしろ、人々が歌っているわけで、それ自体がすでに本当の世界とはかけ離れていますよね。」ここではリアルとダンスの双方を活かす試みがありました。本作では名曲の数々があって、それを作り上げたレナード・バーンスタインについても触れます。「音楽を通じて物語を表現しようと試みた父は、シャークス用にラテン・カリビアン・ミュージックを、ジェッソ用にビバップ・ジャズの曲を書いていきました。それにしても改めて振り返ると驚きますよね。というのは、あれほどまでに大胆かつ壮大なプロジェクトだった『ウエスト・サイド物語』を書いていた当時の父は、ほかにもいろいろな仕事を同時進行で手がけていたんです。例えば『キャンディード』という、まったく別物のヨーロッパ調の舞台劇を書いていましたし、指揮者としても活躍していて、ちょうど『ウエスト・サイド物語』が開幕した頃に、ニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督に就任したんです。」これはバースタインの娘さんからの話でした。「なにしろ、私たちが住む世界は今、完全に二極化してしまっていますからね。一方でオリジナル映画版に対して、特にプエルトルコ系の皆さんが複雑な感情を抱いてきたのも否めません。これを機会に、アメリカにいるプエルトルコ系などラテン・アメリカ系の人たちにも『正しく自分たちが描かれている』と感じていただくことがいかに大切か、スティーブンとトニーを筆頭にスタッフ全員が、初めから肝に銘じていました。」これは制作に携わったクリーガーの言葉でした。まだまだメイキングブックから紹介したい言葉があるのですが、紙面の都合でここまでにします。