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図録「春日神霊の旅」の雑感
横浜市金沢区にある神奈川県立金沢文庫で開催されていた「春日神霊の旅」展に、私は家内を誘って3月16日に出かけました。NOTE(ブログ)にもその感想を書いていますが、展覧会の図録は予約販売になっていて、私はその場で注文をしました。その図録「春日神霊の旅」が今日郵送で自宅に届きました。図録を眺めていると、展覧会で見た作品の数々が思い出されてきます。同展は現代美術作家の杉本博司氏による企画で、自らも骨董品に補作したものを出品していて、そのセンスに驚きました。私は当初、杉本氏をコンセプトがしっかりした写真で世界観を表現する人と思っていましたが、骨董品を扱うビジネスも展開していて、表現者としての杉本氏と、骨董品に造詣の深い杉本氏の双方の顔を持った独特なアーティストであると認めるに至りました。図録には、彼が自らの美術遍歴を振り返る文章が掲載されていて、印象に残りました。一部を抜粋したいと思います。「思えば私は古美術品の収集に取り憑かれてかれこれ40年になる。私は古美術に教えられ、導かれて、私の作家としての感性を磨いてきた。私の書斎は仏間でもある。平安期の十一面観音を祀るというよりも一緒に暮らしている。そのご尊顔を毎日見続けていると仏の姿に神の姿が見え隠れする。私は平安時代に神仏が習合していった頃の人々の信心の姿を、私の心の内に見る思いがする。私の古美術収集の方針は、諦めきれないものを買う、ということに尽きる。~略~私は私の作品に精魂を込めながら、古美術という精魂と交歓したいのだ。私は藤原期の彩色された掛仏を見ながら、その裁金の細部にまで宿る精魂が、私の作品と交換されるという現実に、かたじけなさに涙こぼれる思いに囚われるのだ。その掛仏の尊顔には、何事かがおわしました気配のようなものが、色濃く残っているのが私には自明のことのように見える。~略~思えば私が集めてきた春日の宝物は、私がその宝物の持つ抗いようのない力に打ちのめされ、感化され呪縛され、私のもとへいっときお越し願っているのだと思う。」私はさまざまな古代の宝物を見て、こうした思いに駆られたことが今までなかったので、アートとの繋がりの中で不思議なものを感じていました。「春日神霊の旅」展は、数多の展覧会の中でも特異な世界を持っていて、私には説明のできない何かを齎せたように思います。