Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

映画「憂鬱之島」雑感
先月末に東京神保町にある「岩波ホール」が閉館しました。私にとって重要なミニシアターを失いましたが、横浜には「シネマ ジャック&ベティ」があって、救われた気分になっています。その横浜のミニシアターで香港の人々が翻弄され弾圧を受ける様子を描いた映画「Blue Island 憂鬱之島」を観てきました。これは家内を誘わず私一人で行ってきました。香港と言えば2019年の逃亡犯条例改正問題で巨大化したデモが記憶に新しいところですが、第二次大戦後、大陸から流入した難民が人口の多数を占める香港という独特な都市には、現代史にその存在を残すほど多くの暴動やデモが繰り返されてきました。1967年の香港イギリス政府に対する抵抗は六七暴動と呼ばれ、また文化大革命が始まると70年代には文革による下放政策から逃れるため、多くの知識青年が監視の目を逃れ、自由の象徴である香港へ泳いで渡りました。天安門事件では香港から多くの人々がデモに出かけ、そこでは中国の人民解放軍が武力制圧を行ないました。そして最近の雨傘運動と呼ばれたデモがありました。香港人の強いアイデンティティの前では、中国の政府は「香港国家安全維持法」という法律を制定して強権手段で応じたのでした。監督インタビューの中でC・ジーウン氏はこんなことを言っています。「このプロジェクトのテーマは、ある特定の場所や時間に限られたものではなく、『香港人の集団的アイデンティティ』を定義する壊れない鎖、つまり市民的主張の連続性を探求することです。」映画にはドキュメンタリーとしての映像と役者が演じる昔の映像が同居しています。つまり実在する人物を役者が補っているという按配です。こうした社会に対して強いメッセージ性を有する映画は、中国はおろか香港でも上映されず、クラウドファンディングで日本から支援があったおかげで、私たちはこれを観ることができるのです。私は日本の多くの若い世代がこれを観て、隣国の社会情勢を知るべきだと考えます。世界はロシアのウクライナ侵攻に象徴されるように、資本主義国家と社会主義国家の鍔迫り合いにあり、社会主義国家の強権体制が目に余る事態になっています。香港の問題は台湾の問題でもあると私は察していて、民主主義を守るために日本も行動すべき時が訪れると感じています。ミニシアターで上映される映画は、そうした時事問題をいち早く取り上げて、私たちに現在地点を考えさせる重要な役割を担っています。私がミニシアターを大切にしているのは、そんな思いがあるのです。