Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「変わりゆく世界をかたちにする」について
「彫刻の歴史」(A・ゴームリー M・ゲイフォード共著 東京書籍)は彫刻家と美術評論家の対話を通して、彫刻の歴史について語っている書籍です。全体で18の項目があり、今日は18番目の「変わりゆく世界をかたちにする」について、留意した台詞を取り上げます。この項目で本書は最後になります。「この石そのものにも、そしてすべての石のなかにも歴史が詰まっている。生きものの遺骸が石化して化石になっているんだ。つまり堆積岩のなかにはこの化石という地質学的な記憶が埋まっていて、それがフィレンツェにあるミケランジェロの、石のなかに半ば埋もれたままの奴隷たちに命を与えている。」(A・ゴームリー)「李禹煥の説明によれば、彼は『つくられていない』ものが好きなのだそうです。その目指すところは、人の手の入っていないものに語らせることにあります。だから彼はよく、この『人の手に入っていない』ものをほかのものと並べて置くのです。たとえば長い棒状に加工された金属を、丸くずっしりとした巨礫にバランスを取りながらたてかけて、一緒に17世紀の宮殿、つまりヴェルサイユ宮殿の石造りの正面の前に置いたりしています。」(M・ゲイフォード)「彫刻は世界に力を与えるとともに、問いを投げかけるものでもある。都市に住む僕らは、環境の機能性を主張する建築物や標識に囲まれて、目的の達成を最優先にする生活を再び強いられている。でも彫刻はそこでいったん立ち止まる機会を提供し、それ自体が矛盾したような、別のもっと深い考え方を提供する。そして僕らを、もう誰もコントロールできないような交換システムに酷使される、物言えぬ労働者にしてしまっている権力に対して、抵抗するように促すんだ。彫刻はこの150年のあいだに変化してきた。しかもこの変化はさらに加速して、僕らの生活のなかの物質的な背景を見直すように勧めている。ひとつ前の時代の理想主義とは対照的に、僕らの時代は物質的な存在それ自体のなかに、自分たちがそこに根ざしている感覚や安らぎといったものを見出してきたと思う。このことは彫刻に深い影響を与え、彫刻をその基本に立ち返らせることを可能にする。」(A・ゴームリー)次回は本書全体の読後感を述べたいと思います。