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「溶ける魚」26~30について
「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」(アンドレ・ブルトン著 巖谷國士訳 岩波書店)の「溶ける魚」の26から30までの単元の中で、気に留めた詩文をピックアップいたします。まず単元26です。「私は好んで地上にいるのではない。あなたが子どもの手をとって別荘につれてゆくあいだ、それとも女の腰をだいてよろこばせているあいだ、それとも老人の鬚をつかんで敬意を表しているあいだ、私は私で自分のいつわりの誘惑の布を、非難をよびおこすこの奇妙な多辺形を、稲妻のようにつむいでいる。」単元27に移ります。「むかしむかし、ある堤防の上に、一羽の七面鳥がおりました。この七面鳥は、もうあと何日かすれば真昼の太陽に焼かれてしまうしかなく、そのために堤防の上にすえられているヴェネツィアの鏡のなかに、こっそり自分のすがたをうつして見ていた。するとそこへちょっかいを出したのは人間の手で、これはあなたもうわさにきいていないわけではない野辺の花だった。」単元28に移ります。「市街26の外郭地区であの奇蹟はおこった。私たちの車と反対の方向からやってきて、なにやら不可思議な炎の渦巻模様のなかで私の名前をうらがえしに書きはじめた一台の車が、ついうっかり、私たちの車にぶつかってきたのである。むこうの速度がこっちよりも遅かったかどうか、悪魔のみぞ知るといったところだ。」単元29に移ります。「猟師はこうしてふりかえることもなくフランスの大地のはてまで行きつき、とある峡谷のなかにはいっていった。四方八方に暗闇がひろがり、指の軽率なふるまいは彼に自分の命を気づかわせるほどだった。いくつかの断崖を通りぬけられたのは、ときおりかたわらに花がおちてきたとき、わざわざそれを拾いあげようとしなかったからである。指はそのときくるくると回転しており、狂おしく心をうばうピンク色の星になっていた。猟師は二十歳かそこらの男だった。彼の犬たちは悲しげにあたりを這いまわっていた。」単元30に移ります。「私はいま、見ないふりをしたいときに覗き見するあのやりかたで両手にかくれて話しかけてくるうつろな空気(空気は話すふりをしないように両手のなかから話しかける)に約束をしようとしていたが、しかし、蠟燭はついさっきから笑っており、私の両眼はもはやひとつの影絵にすぎなかった。」今回は以上です。